AIが生成した材料の構造画像を用い、物性を予測する技術を開発 ~材料の選定から加工・評価までを高速・高精度に再現、材料開発を加速~(NEDO)

2021.09.08更新

NEDOの「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」で、先端素材高速開発技術研究組合、日本ゼオン(株)は産業技術総合研究所と共同で、人工知能(AI)によって材料の構造画像を生成し、高速・高精度で物性の予測を可能とする技術を開発しました。

今回開発した技術は、単純な化学構造を持つ低分子化合物に限定されない材料にディープラーニング(深層学習)を適用する新しいAI技術です。カーボンナノチューブ(CNT)のような複雑な構造を持つ材料に対して、構造画像の学習および生成を行い、実際の実験と比べて98.8%もの時間を短縮し、材料物性の高精度な予測を実現しました。これにより従来はAI技術を適用できなかったさまざまな材料系についても材料選定から加工・評価まで一連の実験作業を高速・高精度にコンピューター上で再現(仮想実験)することが可能になり、材料開発のさらなる加速が期待できます。

なお、本技術の詳細は、8月30日(英国時間)に、Nature Researchが発行する国際学術誌「Communications Materials」の電子版に掲載されました。

概要

材料開発のさらなる高度化・高速化の要求に応えるため、急速に発展したデータ駆動型※1の研究開発によって、ディープラーニング(深層学習)※2などの情報処理技術を利活用する動きが活発になっています。これらは、さまざまな材料データをコンピューターに学習させることで、高性能な新しい材料の提案を可能とするAI技術で、人の勘や経験に頼る従来の材料開発をさらに高度化することができます。しかし、コンピューター上で扱える材料は構造が定義できる低分子化合物や周期構造を持つ金属、無機化合物に限定されることが大きな課題でした。

このような背景のもと、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」(2016年度~2021年度)で、カーボンナノチューブ(CNT)※3をはじめとする機能性材料開発の高速化を目指し、データ駆動を活用した研究を進めています。本事業で先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)、日本ゼオン株式会社(日本ゼオン)は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)と共同で、より汎用(はんよう)性の高い材料へディープラーニングを適用する手法を開発しました。

今回開発した技術では、まず複雑な構造を持つCNT膜の構造画像と物性をAIに学習させます。その上で、種類の異なるCNTを任意の配合で混合した場合のさまざまなCNT膜の構造画像をコンピューター上で生成することで、実際の実験と比べて98.8%もの時間を短縮し、その物性の高精度な予測を可能にしました。この技術は、従来のAIでは適用できなかった複雑な構造を持つ材料の組成選定・加工・評価といった一連の実験作業をコンピューター上で高速・高精度に再現(仮想実験)することを可能にするもので、材料開発のさらなる加速が期待できます。

なお、本技術の詳細は8月30日(英国時間)に、Nature Researchが発行する国際学術誌「Communications Materials」の電子版に掲載されました。

図 今回開発したAI技術によるCNT膜の仮想実験(a)とさまざまなCNT膜の物性予測(b)</p

今後の予定

NEDO事業で実施三者は、CNTをはじめとするナノ材料と高分子材料との複合材料を対象とした汎用的なAI技術開発に取り組むとともに、ファインセラミックス※4、マルチマテリアル※5といった幅広い材料へ適用可能な技術開発につなげていきます。

【注釈】

※1 データ駆動型
マテリアルズインフォマティクスやプロセスインフォマティクスを含む研究開発方法の総称を指します。材料に関する実験やシミュレーション結果のデータベースを、情報科学(インフォマティクス)の手法を用いて解析することで、効率的で高速な新材料探索を行う取り組みや、材料試作から工業的に利用可能な製造方法に至る開発をデータ科学により加速させ、製品化までの試行錯誤や擦り合わせを簡略化させるための研究開発方法です。
※2 ディープラーニング(深層学習)
コンピューターに大量のデータを与えて、データのパターンなどを認識させ、予測させる技術は機械学習と呼ばれ、人工知能分野でよく用いられています。その中で人間の神経回路(ニューロン)を模したシステムであるニューラルネットワークを多層にした手法をディープラーニングと呼んでいます。入力と出力の複雑な関係を結び付け、対象を分類や予測したい問題に広く適用することができます。
※3 カーボンナノチューブ(CNT)
炭素原子のみで構成される直径が0.4nm~50nmの一次元性のナノ炭素材料です。グラファイト層を丸めてつなぎ合わされた構造で、層の数が1枚だけのものを単層CNT、複数のものを多層CNTと定義されています。
※4 ファインセラミックス
セラミックスのうち、材料の純度と精度を高め、欠陥制御、粒界構造制御などを行うことで、耐熱、耐摩擦、耐食性や電気絶縁性などの優れた物理・化学特性を持つものを指します。半導体デバイスや自動車、情報通信、産業機械、医療などさまざまな分野で利用されています。
※5 マルチマテリアル
鋼材やアルミニウムをはじめとする金属や、炭素繊維複合材料などの樹脂材料を組み合わせることで、軽量化や高強度化を実現する手法です。主に自動車や航空機など輸送機器の軽量化に重要な技術です。

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