自然にはない反射特性を示す140 GHz帯メタサーフェス反射板を開発-基地局の増設なしにポスト5G/6G無線通信のエリア拡大を可能に-
ポイント
- ポスト5G/6Gで利用予定の140 GHz帯で反射方向を自在に設定できる反射板を世界で初めて開発
- 高精度なミリ波帯材料計測に基づく最適化設計により最大88%の高効率の反射を実証
- 障害物を迂回して基地局と端末を中継し、ポスト5G/6G無線通信のエリア拡大への貢献に期待
概要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)物理計測標準研究部門電磁気計測研究グループ 加藤 悠人 主任研究員は、国立大学法人 大阪大学大学院基礎工学研究科(以下「大阪大学」という)システム創成専攻 真田 篤志 教授と共同で、次世代のポスト5G/6G※1で利用が想定される140 GHz帯において、電磁波を設定した特定方向に高効率で反射するメタサーフェス※2反射板を世界で初めて開発した。
近年、移動通信の高周波化が進んでおり、ポスト5G/6Gでは100 GHz超の周波数のミリ波※3が利用される。ミリ波通信では障害物の遮蔽効果による通信エリアの制限が課題となる中で、高効率な反射を特定の方向に設定できるメタサーフェス反射板を用いた通信エリアの拡大が注目を集めている。しかし、100 GHz超のミリ波帯において、高効率設計に必須な材料パラメータを高精度に計測することが困難であったため、メタサーフェス反射板の開発・実証例はこれまでなかった。今回、ポスト5G/6Gで利用予定の140 GHz帯において、高精度なミリ波帯材料特性計測結果に基づいて最適化設計を行い、特定方向以外の不要反射がほぼ完全に抑えられた高効率のメタサーフェス反射板を開発した。材料由来の効率の低下を除いた反射効率※4は理論的に99 %以上に達し、実用上不可避の材料損失を含めた実測値も最大88 %と高効率動作を実証した。140 GHz帯における高効率なメタサーフェス反射板の開発・実証は世界初である。今回開発した技術により、基地局の増設なしにポスト5G/6G無線通信のエリア拡大への貢献が期待される。この技術の詳細は、2021年11月23日にIEEE Accessに掲載された。

開発したメタサーフェス反射板(左図)とその実証実験の様子(右図)
今後の予定
今後は、ポスト5G/6G無線通信への応用を見据えて、メタサーフェス反射板の動作周波数の300 GHzまでの高周波化や反射方向の動的制御、マルチバンド動作などの高機能化の研究開発を進める。
用語の説明
- ※1 ポスト5G/6G
- 日本では2020年に運用が開始された第5世代移動通信システム(5G)に対し、超低遅延や多数同時接続などの特徴的な機能が強化されたシステムがポスト5G、2030年頃に運用開始が見込まれる後継通信システムが6Gである。
- ※2 メタサーフェス
- 電磁波の波長よりも十分に小さな構造体を表面や内部に配列して構成されたシート状の人工構造体。異常反射など、自然界の材料が示さない特殊な電磁的性質を示すことが特徴である。
- ※3 ミリ波
- 周波数が30 GHz~300 GHz (波長が1 mm~10 mm) の電磁波。ポスト5G/6G無線通信での利用が期待されている。これまで携帯電話で利用されてきたより低周波の電磁波に比べて、高速大容量通信が可能である一方、直進性が高いため建物などの障害物で遮断されやすい。
- ※4 反射効率
- 入射波の電力に対して、特定の方向への反射波の電力の割合。異常反射を示すメタサーフェス反射板では、高い反射効率の実現にあたっては、特定方向以外の方向への不要反射を抑えて、特定方向のみに選択的に反射させる設計が求められる。
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