GaNとSiCを一体化したハイブリッド型トランジスタを世界で初めて動作実証
-GaNトランジスタの過電圧脆弱性を解決-(産総研)
ポイント
- GaNトランジスタとSiCダイオードのモノリシック化に成功
- 回路異常動作時に起こるGaNトランジスタ耐圧破壊の問題を解決
- モーター駆動や太陽光発電用パワーコンディショナーなどへの応用に期待
概要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)先進パワーエレクトロニクス研究センターパワーデバイスチーム 中島 昭 主任研究員、原田 信介 研究チーム長は、ワイドバンドギャップ半導体である窒化ガリウム※1(GaN)を用いた高電子移動度トランジスタ※2と炭化ケイ素※3(SiC)を用いたPNダイオード※4の両者をモノリシック※5に一体化した、ハイブリッド型トランジスタ※6の作製および動作実証に世界で初めて成功した。GaNとSiCのデバイス試作を両立できる独自の一貫製造プロセスラインの構築によって、ハイブリッド型トランジスタの実現に至った。試作したハイブリッド型トランジスタ※7は、GaNの特長である低いオン抵抗※8およびSiCダイオードで実績のある非破壊降伏※9の両立を実現した。これによって、ハイブリッド型トランジスタは高い信頼性が求められる電気自動車や太陽光発電用パワーコンディショナーなどへの適用が期待される。今後は、デバイス製造プロセスのさらなる最適化を進め、実用化に向けた橋渡しを目指す。
なお、この技術の詳細は、2021年12月11~15日に米国サンフランシスコ州で開催される67th Annual IEEE International Electron Devices Meetingでオンライン発表される。

直径100 mmウエハー上に形成されたハイブリッド型トランジスタとその等価回路
今後の予定
今後は、実際の変換器に利用可能な大面積デバイス(定格10 A以上)の動作実証に取り組む予定である。また、実証に成功したハイブリッド型トランジスタ以外にも、SiCとGaNの融合技術は、多くの可能性が期待される。さまざまなアイデアのコンセプト実証から量産試作への橋渡しに貢献し、企業共同研究についても積極的に模索していきたい。
用語の説明
- ※1 窒化ガリウム(GaN)
- 窒素(N)とガリウム(Ga)からなる化合物半導体。1990年代に青色LEDとして利用が始まった。また、近年において、高電子移動度トランジスタとしての研究開発が進められている。高速スイッチングが特長であり、スマートフォン用の小型ACアダプタなどの600 V以下で高速スイッチング性能が求められる用途に採用が始まっている。
- ※2 高電子移動度トランジスタ
- 半導体ヘテロ接合を用いたトランジスタ。一般にHEMT (High Electron Mobility Transistor)と呼ばれる。不純物をドーピングしないGaN膜上に、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)バリア膜を形成する。このヘテロ接合界面に分極による2次元電子ガスが形成される。2次元電子ガスは、不純物がドーピングされていないGaN内に流れるため非常に高い移動度を得ることができる。MOSFETと異なり、HEMTはボディダイオードを持たない。
- ※3 炭化ケイ素(SiC)
- 炭素(C)とケイ素(Si)からなる化合物半導体。従来のSi半導体と比べ、パワーデバイスの特性向上につながる物性値に優れている。主に電車などの高電力・高信頼性が求められる用途に採用が始まっている。
- ※4 PNダイオード
- p型半導体およびn型半導体を接合させたダイオード。整流性を有しており、通常用いる電圧範囲内においては順方向にしか電流を流さない半導体デバイス。
- ※5 モノリシック
- 複数のデバイスが一体形成されており、それによって複数のデバイスが一つの部品となっている状態。
- ※7 トランジスタ
- ソース電極、ゲート電極、およびドレイン電極を有する3端子の半導体デバイス。ゲート電極に印可する電圧によって、ソース・ドレイン間の電流のオン/オフ制御が可能。電力変換器において、電気的なスイッチとして用いられる。
- ※8 オン抵抗
- 電気的スイッチであるトランジスタは、スイッチがオンの状態において有限の抵抗を持ち、これをオン抵抗と呼ぶ。導通時の損失を低減するため、パワートランジスタでは低いオン抵抗が求められる。
- ※9 降状
- 電気的スイッチであるトランジスタは、スイッチがオフの状態において有限の耐圧を持ち、耐圧を超える電界が印可されるとオフ状態を維持できず、電流が流れ始める。これを降伏と呼ぶ。SiトランジスタやSiCトランジスタは半導体のアバランシェ現象により、非破壊モードで降伏する。一方、GaNトランジスタは、破壊モードで降伏することが課題だった。
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