デュアルコム分光を用いた平板光学材料の超高精度な屈折率・厚さ計測手法を開発 ~光学素子の高精度設計に期待~(産総研)
概要
研究当時、慶應義塾大学大学院理工学研究科の住原花奈(現在は修了)、同大学理工学部物理学科岡野真人元専任講師(現防衛大学校准教授)、渡邉紳一教授、産業技術総合研究所物理計測標準研究部門光周波数計測研究グループの大久保章主任研究員、稲場肇研究グループ長の研究グループは、平板材料の厚さと屈折率を、同時に極めて高精度に計測する技術を開発しました。
光学レンズをはじめとした光学素子の設計には、材料を構成する物質の屈折率※1を正確に決定することが不可欠です。また、光学レンズ加工前の平板材料の正確な厚さの決定も重要です。今回、光の位相変化量を正確に直接計測できるデュアルコム分光法※2を用いて、平板シリコン材料の厚さと屈折率を、非接触で、多波長に対して高精度に同時計測する手法を開発しました。本手法は、材料の屈折率を、平板形状のまま、究極的な精度で計測できる画期的なものです。今後、各種光学材料の正確な屈折率計測に応用することで、光学素子の高精度設計につながることが期待できます。
本研究成果は、2022年1月12日(現地時間)に『Optics Express』で公開されました。
ポイント
- デュアルコム分光法を用いた、平板光学材料の厚さおよび屈折率の同時計測法を新たに開発。
- シリコン平板に対し、試料の加工が不要な同時計測法として最高の厚さ測定精度(相対値3×10-6)および屈折率測定精度(相対値2×10-5)を達成。
- 多様な光学材料の厚さ・屈折率を精密に計測することにより、光学素子・装置の高精度設計に期待。
研究背景と結果の概略
屈折率は物質の基本的な物理量の一つです。2つの物質における屈折率の違いによって、その境界面で光の屈折がおき、これがレンズを用いた集光の基礎となります。光の屈折角は屈折率に依存するため、光学レンズをはじめとした光学素子の設計には、素子を構成する物質の屈折率を正確に求めることが不可欠です。また、一般に光学レンズは平板ガラスを研磨して作ります。そこで、平板形状の物質について、その屈折率と厚さを同時に正確に計測できる技術があると大変便利です。
屈折率の値を高精度に求めるためには、古くから分光学的手法が用いられてきました。特に、最小偏角法※3が最も計測精度の高い手法として知られており、その相対精度は2×10-6に達します。しかしながら、最小偏角法は物質をプリズム形状に加工する必要があるため煩雑な前処理が必要でした。今回我々は、光の位相変化量を正確に直接計測できるデュアルコム分光法を用いることで、物質をプリズム形状に加工することなく、平板のままで、広い波長域における屈折率、および厚さを同時に高精度に計測する手法を開発しました。

図(a):シリコン平板があるときと無いときのデュアルコム分光によって計測した干渉時間波形。 図(b):今回決定したシリコン平板の屈折率(挿入図は拡大図)。
用語の説明
- ※1 屈折率
- 真空中の光速cと、物質中の光速vの比であらわされる量。同じ厚さの場合、屈折率が大きい物質のほうが、物質内部での光の位相変化量は大きくなる。
- ※2 デュアルコム分光法
- 広い波長域において、等しい周波数間隔で多くのレーザーが位相まで揃った状態で発振する「光周波数コム光源」を2台用い、その干渉計測によって片方のコム光源の振幅と位相の変化量を広い波長にわたって正確に求める手法。
- ※3 最小偏角法
- プリズム形状の物質に入射する単色平行光線の入射光線と射出光線のなす角(偏角)の最小値を調べることで、物質の屈折率を高精度に計測する方法。
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