航空機から地表面を観測する合成開口レーダーの高分解能化と技術実証に成功 ~次世代レーダーにより従来比2倍、世界最高分解能15cmを達成~(NICT)

2022.02.09更新

ポイント

  • 15cm分解能で地表面を画像化するレーダーPi-SAR X3の技術実証に成功
  • NICTの従来の航空機搭載合成開口レーダー(Pi-SAR2)に比べて2倍の高精細画像を取得
  • 災害・環境モニタリングの分野での活用が期待され、船舶や漂流物等の海面監視にも応用可能

概要

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、理事長: 徳田 英幸)は、電磁波研究所において、電波を使うことで昼夜・天候に左右されることなく地表面を画像化することができる航空機搭載合成開口レーダー※1「Pi-SAR X3」により、地表面観測の高分解能化(従来のPi-SAR2:分解能30cm→Pi-SAR X3:分解能15cm)を実現し、その技術実証のための試験観測に成功しました。分解能15cmは世界最高性能であり、従来比2倍の高精細画像が取得可能になりました。本技術により、地震等の自然災害時における被災状況をより詳細に把握できるようになり、円滑かつ効果的な救助活動や復旧作業への貢献が期待できます。今後、本技術は、災害発生状況の早期把握や環境モニタリング及び、船舶や漂流物等の海面監視などの社会実装への取組を推進していく予定です。

図 Pi-SAR

図 Pi-SAR X3の観測ターゲット

今後の展望

今後は、システムの最適化を進めることで高画質化を進めていきます。また、2022年度からは、地震等の自然災害のモニタリングや、土地利用、森林破壊、海洋油汚染、海洋波浪、平時の火口観測等の環境モニタリングに関する技術の高度化を実施する予定です。

【注釈】

※1 合成開口レーダー(SAR)
合成開口レーダーでは、高い空間分解能を得るために合成開口処理とパルス圧縮処理※2を行っています。合成開口処理は、飛行方向の分解能を向上させる処理です。一方、パルス圧縮処理は、飛行方向と直角方向(以後、「レンジ方向」と呼ぶ)の分解能を向上させる処理です。NICTの航空機搭載合成開口レーダーはX帯の電波(8〜12GHz)のうち、Pi-SAR 2では9.3〜9.8GHzを使用していましたが、Pi-SAR X3では9.2〜10.2GHzを使用しており、送受信する周波数の幅(帯域幅)を拡張することによって分解能の向上を実現しています。
※2 パルス圧縮処理
パルス圧縮処理は、送信する電波の周波数を線形変調させながら送信し、受信された信号を解析処理することで電力レベルの大きな単パルス波で観測した時と同じ高い分解能で地表面を映像化する処理技術です。パルス圧縮処理によるレンジ方向の分解能向上は、送受信する電波の帯域幅に比例します。つまり、帯域幅が広ければ広いほど、レンジ方向の分解能を高めることができます。

最新のEMC関連規格動向は『月刊EMC』にて随時掲載しています。


Copyright(C) Kagakujyoho shuppan Co., Ltd. All rights reserved.
※記事の無断転用を禁じます。