分子ロボットの「群れ」の実働に世界で初めて成功
―AIとVRの技術を組み込んだ研究開発環境を活用―(NEDO)
NEDOの「人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業」において、北海道大学と関西大学はAIとVRを活用した分子ロボット共創環境の研究開発に取り組んでおり、今般、その環境を利用して分子ロボットの「群れ」を開発し、最大直径30マイクロメートルの物質を効率的に輸送することに世界で初めて成功しました。群れの持つ利点を利用することで、分子ロボット単体ではなし得なかった大きなサイズの積荷を運搬できるようになっただけでなく、大幅な輸送効率の向上を可能にしました。将来的には薬剤の運搬や選択など医療分野のほか、汚染物質の回収など環境保全分野で活躍するマイクロ・ナノマシンとしての応用が期待されます。
本研究成果は、2022年4月20日(米国東部標準時)に米国科学振興協会(AAAS)発行の科学誌「Science Robotics」に掲載されました。
概要
分子で構成され環境に応じて動く「分子ロボット」は、医療や環境保全の現場などでマイクロ・ナノマシンとしての応用が期待されています。しかし、分子ロボットを構成する分子部品の設計は生体分子や化学反応に関する高度な知見が必要なことや、実験、観察、完成までの工程に多くの時間を要することから容易ではありませんでした。
このような背景の下、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業」において、国立大学法人北海道大学、学校法人関西大学、株式会社分子ロボット総合研究所は2020年から人工知能(AI)とVRを活用した分子ロボット共創環境の研究開発に取り組んできました。この中で確立した環境を活用しながら、このたび北海道大学と関西大学は国立大学法人九州大学、米コロンビア大学、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学の協力を得て、ロボットの群れの形成・離散を遠隔で操作する分子機構を導入した分子ロボットの「群れ」を世界に先駆けて開発し、以下の成果を得ました。
- 数十マイクロメートルというこれまでにない大きさの物質を、指定した場所に輸送することに世界で初めて成功しました。
- 群れ(今回は約100万体の分子ロボットを使用)を利用することで、分子ロボット単体と比べ輸送効率を最大5倍、積荷サイズを10倍に拡大しました。
- 光(紫外光)を照射するだけで物質の輸送先を任意に指定することも可能としました。
本研究成果は、2022年4月20日(米国東部標準時)に米国科学振興協会(AAAS)発行の科学誌「Science Robotics」に掲載されました。

図1 分子ロボットの群れによる物質輸送の概念イメージ(上)実際に物質を輸送している分子ロボットと積荷の蛍光顕微鏡写真(下)
今後の予定
北海道大学、(株)分子ロボット総合研究所、関西大学はNEDO事業において引き続き、研究開発の現場にAIとVRの技術を組み込んだ共創環境を開発し、それを活用した分子ロボットの研究を進めます。今回の分子ロボットの群れの成果については将来的に、マイクロ・ナノマシンとしての薬剤の運搬や選択など医療分野、汚染物質の回収など環境保全分野への応用が期待されます。
NEDOは今後も、人とAIが相互に作用し共に進化するAIシステムの基盤技術の確立を通じて、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少など日本が直面する社会課題の解決に貢献することを目指します。
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