アモルファス構造のトポロジーから熱伝導率を予測する技術を開発
~ミクロな構造と材料機能の相関解明に期待~(JST)

2022.07.05更新
アモルファス構造のトポロジーから熱伝導率を予測する技術を開発

<ポイント>

  • 従来の方法では、非晶質(アモルファス)が持つ構造の特性を系統的に抽出できず、熱伝導と原子スケールでのミクロな構造を結び付けることができなかった。
  • トポロジカルデータ解析を活用することで、アモルファスシリコンの構造から熱伝導率を予測し、その高低を決めるミクロな構造の同定を実現。
  • アモルファスだけでなく合金などその他の乱れた構造に対する新規解析方法としての展開や、望ましい性質を持ったアモルファスの創成への応用が期待される。

 分子科学研究所の南谷 英美 准教授、東京大学 大学院工学系研究科の志賀 拓麿 講師(当時)、青山学院大学の柏木 誠 助教、岡山大学の大林 一平 教授からなる研究グループは、トポロジカルデータ解析を活用することで、アモルファスの熱伝導率を予測する技術を開発しました。

 アモルファスは太陽電池を始め広く応用されている材料ですが、どのようなミクロな構造が物理的性質や性能に直結しているかが従来の解析方法では分かりませんでした。そのため、複雑な構造の特徴を捉え、ナノスケールからの物性理解に結び付ける技術の開発が望まれていました。

 本研究グループは、産業応用上重要な材料と物理量の組み合わせとして、アモルファスシリコンの熱伝導率に注目しました。ホモロジーと呼ばれる数学的概念を用いたデータ解析手法の1つ、パーシステントホモロジーを用いると、複雑な構造が持つマルチスケールな特徴を抽出できることに着目し、それを機械学習・物性シミュレーションと結び付けることでアモルファスの謎を解明することに挑みました。その結果、熱伝導率を高精度に予測するだけでなく、それを決定しているナノスケール構造を明らかにすることができました。

 今回得られた成果や技術は、乱れた構造に対する新たな解析方法としての展開や、微細構造の制御を通じたアモルファス物性のコントロールへの応用が期待されます。

 本研究成果は、2022年6月23日(現地時間)に、米国科学誌「The Journal of Chemical Physics」に掲載されます。


 本研究は、以下の研究費の助成を受けて実施されました

  • JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ
    JPMJPR17I7、JPMJPR17I5、JPMJPR19I4
    (熱輸送のスペクトル学的理解と機能的制御 領域)
    JPMJPR1923
    (数学と情報科学で解き明かす多様な対象の数理構造と活用 領域)
    JPMJPR2198
    (力学機能のナノエンジニアリング 領域)
  • 科学研究費補助金
    21H01816(基盤B)
    19H02544(基盤B)
    19H00834(基盤A)
    20H05884(学術変革領域研究A)
  • また、本研究のコンピューターシミュレーションには自然科学研究機構 岡崎共通研究施設・計算科学研究センターのスーパーコンピューターを用いました。

    <プレスリリース資料>

    <論文タイトル>

    • “Topological descriptor of thermal conductivity in amorphous Si"
    • DOI:10.1063/5.0093441


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