シリコン光集積回路のみで作動するニューラルネットワーク演算技術を開発
-デジタル電子回路を補完する超低遅延、かつ低消費電力な光AI基本技術を確立-(産総研)

2022.07.12更新

ポイント

  • 電子回路を使わず、シリコン光集積回路のみで作動する演算方式を考案し、その動作を確認
  • 光伝搬だけで演算できるため、超低遅延、かつ消費電力の少ない演算が可能
  • デジタル電子回路を補完する高速で低消費電力なAIアクセラレーターへの適用に目途

概要

国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)プラットフォームフォトニクス研究センターのコン グアンウエイ 主任研究員らは日本電信電話株式会社と共同で、国立研究開発法人科学技術振興機構の支援のもと、電子回路ではなく、シリコン光集積回路※1を使った超低遅延かつ消費電力の少ないニューラルネットワーク演算※2技術を開発した。

この技術は、光集積回路を用いて機械学習※3の演算を行う技術である。解析すべき多次元データの電気信号は光集積回路のそれぞれ異なる入力ポートに入力されて光信号に変換され、さらに光集積回路に組み込まれた多数の光干渉計を通過する際に演算が行われる。そして、複数の出力ポートの光強度分布として演算結果が出力される。

この技術を用いることにより、電気回路を経ることなく、光集積回路のみによるニューラルネットワーク演算が実現した。このニューラルネットワーク演算では、パラメーターが固定された光集積回路に光を伝搬させるだけで演算が完了するため、デジタル電子回路のような逐次スイッチングが不要となり、電子回路の千分の1以下の遅延時間、かつ数十分の1の消費電力での演算が可能となる。また、光回路では電子回路の10倍以上の高速なクロックが適用できるため、単位時間あたりのデータ処理量も大きくできる。これらの特徴により、この技術はデジタル電子回路を補完するAIアクセラレーター※4への応用が期待される。なお、この技術の詳細は2022年6月30日にSpringer Nature社刊行の「Nature Communications」で発表される。

本研究で考案した非線形写像型光ニューラルネットワーク演算回路、およびこれを用いた花弁形状によるアヤメの分類結果."

本研究で考案した非線形写像※5型光ニューラルネットワーク演算回路、およびこれを用いた花弁形状によるアヤメの分類結果

今後の予定

今後は演算回路を大規模化し、より複雑な演算への適用性を確認していくとともに、高スループット化や学習機能の集積化にむけて、入力用高速光変調器や受光器の集積、デバイス駆動用、および学習制御用の電子回路の実装を進める予定である。また、今回提案した非線形写像型の演算方式をベースに、汎用データプリプロセッサや、再帰回路の付与による時間波形認識など、より幅広くかつ実用性の高い応用への適合性の確認を進める予定である。

用語の説明

※1  シリコン光集積回路
CMOS(相補型金属酸化膜半導体)電子回路製造技術を用いて、シリコンウエハー上に製作したシリコン光導波路をベースに構成した高密度集積光回路。
※2 ニューラルネットワーク演算
神経系に存在するアーキテクチャーを模倣した電子回路や光回路などによる、ニューラルネットワーク等の人工知能アルゴリズムによる演算。
※3 機械学習
人工知能処理の一種であり、学習データと呼ばれる経験データを使って学習し、データに潜むパターンや特徴を見つけ出し、その学習結果を用いて未知のデータに対して処理を行う。
※4 AIアクセラレーター
人工知能(AI)処理の高速処理に特化した演算回路。
※5 非線形写像
ある集合(定義域)に存在する要素を他の集合(値域)に写像する際に、各要素の線形演算では記述できない関数を用いて行われる写像。

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