地熱発電プラントリスク評価システムを開発 ―酸性熱水資源の活用を進め、地熱資源の利用促進に貢献―(NEDO)

NEDOは「地熱発電技術研究開発」において、地熱資源の利用拡大につながる技術開発を進めてきました。この成果として、地熱技術開発(株)と産業技術総合研究所、エヌケーケーシームレス鋼管(株)、京都大学は、地熱発電用の熱水が酸性であると判明した際に、発電所の建設において最適な材料の検討を支援するソフトウエア(システム)「地熱発電プラントリスク評価システム(酸性熱水対応版)」を開発しました。
従来、坑井ケーシングなどの腐食による金属材料の損傷が、地熱発電所の利用率低下や開発の断念などの要因になっています。本システムの利用により、各金属材料の腐食速度や経済性の評価が可能になり、耐腐食性能・コスト面を含めた最適な材料を選定できます。また、対象となる金属材料の腐食に関する試験データおよび関連論文から、各金属材料の事前検討を簡便に行えます。これにより酸性熱水資源の活用が進み、地熱発電所の利用率向上および設備容量の増加につながることが期待できます。
1.概要
2050年のカーボンニュートラル達成に向け、再生可能エネルギーの導入拡大が望まれる中、世界第3位の地熱資源量を有する日本では、ベース電源としての地熱発電が注目を集めています。しかし、地熱開発に伴い酸性熱水(水素イオン指数[pH]5以下を想定)が生じる事例では、坑井※1ケーシングや地表配管、発電設備の材料が腐食・損傷し、これが地熱発電所の利用率の低下や開発の断念などの要因となっています。
1992年度にNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が行った「酸性熱水の対策技術等に関する調査研究」によると、日本における地熱発電に利用できる地下の熱水(高温熱水対流型資源)のうち、約13%(地熱開発会社へのアンケート)が酸性熱水である可能性があります。日本の地熱資源量は約2300万kW※2であることから、酸性熱水資源は約300万kWとなり、この値は2021年時点での日本の地熱発電の設備容量59.3万kWの約5倍に相当します。このことから、今後の地熱資源の利用促進には、酸性熱水資源の活用に向けた技術開発が重要になると見られています。
このような背景から、NEDOは「地熱発電技術研究開発※3」(2013年度~2021年度)において、地熱資源の利用拡大につながる技術開発を実施しました。その中のテーマの一つとして、地熱技術開発株式会社(GERD)と国立研究開発法人産業技術総合研究所、エヌケーケーシームレス鋼管株式会社(Tenaris)、国立大学法人京都大学は、「未利用地熱エネルギーの活用に向けた技術開発(在来型地熱資源における未利用酸性熱水活用技術の開発)」(2018年度~2020年度、以下本テーマ)を推進し、地熱エネルギーのさらなる高度利用を目指した技術開発に取り組んできました。
今回、本テーマの成果を活用し、地熱開発で酸性熱水が生じた場合、最適な発電設備の材料の検討に役立つシステム「地熱発電プラントリスク評価システム(酸性熱水対応版)」を開発しました。
地熱開発を目指す事業者は、このシステムに備わった材料腐食に関する過去の知見や腐食速度の予測技術を利用することにより、地熱発電所の開発前に坑井ケーシングなどの腐食発生リスクを予見し、対策を講じる手掛かりをつかめます。また、既存の発電所においても、利用率の向上に役立つデータを得ることが可能です。
2.今後の予定
地熱技術開発(株)は、「地熱発電プラントリスク評価システム(酸性熱水対応版)」と本システムの操作マニュアルを無償配布します。また学会・講演会などを通じて本システムの広報を行い、新たな腐食試験データや実際の坑井による腐食データなどの知見が得られた際には、腐食速度予測式の改良などを行う予定です。
注釈
- ※1 坑井
- 地下の地質構造の探査や地下資源の採取などを目的に掘削された穴です。
- ※2 約2300万kW
- 「日本の熱水系資源量評価」[村岡洋文、阪口圭一、駒澤正夫、佐々木進(2008)日本地熱学会講演論文集]より引用したデータです。
- ※3 地熱発電技術研究開発
- 地熱発電の導入促進を目的に、環境保全対策技術、酸性熱水対策技術、地熱発電システムの運転などの管理高度化技術などをテーマに研究開発を実施しました。
- 事業期間:2013年度~2021年度
- 事業規模:約10億円
- 事業概要:地熱発電技術研究開発
最新のEMC関連規格動向は『月刊EMC』にて随時掲載しています。
Copyright(C) Kagakujyoho shuppan Co., Ltd. All rights reserved.
※記事の無断転用を禁じます。