「国内初、酸化ガリウムショットキーバリアダイオード搭載の出力電力350W電流連続型力率改善回路の実機動作確認に成功 ―高出力・高耐圧・優れた省エネ性を実証―(NEDO)

2023.05.01更新


 NEDOの「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」の一環として「β-Ga2O3ショットキーバリアダイオードの製品化開発」に取り組む(株)ノベルクリスタルテクノロジーは、酸化ガリウム(β-Ga2O3)ショットキーバリアダイオード(SBD)の実機動作確認に成功しました。開発中の耐圧1200Vのβ-Ga2O3SBDを電流連続型PFC(力率改善)回路に搭載し、評価を行ったところ、回路の出力電圧390V、出力電力350Wという高出力で正常に動作することを確認しました。高出力で実機動作を確認したのは国内初となります。また、本用途で広く使用されているシリコン(Si)製のファストリカバリーダイオード(Si FRD)と電力変換効率を比較したところ、1%の効率改善という結果が得られ、省エネ性にも大変優れていることが確認できました。本実機動作の確認は、中耐圧(600-1200V)のβ-Ga2O3SBDがパワーエレクトロニクス機器に採用されるための大きな実証事例になると考えられます。

 本成果により、β-Ga2O3パワーデバイスは、太陽光発電向けパワーコンディショナー、産業用汎用(はんよう)インバーター、電源などのパワーエレクトロニクス機器の高効率化・小型化、自動車の電動化や空飛ぶクルマなどの電気エネルギーの効率利用への貢献が期待できます。2030年の日本における省エネ効果量として10万kL/年(原油換算)を目指します。

表 電力変換効率の比較結果

表 電力変換効率の比較結果

1.概要

 近年、シリコン(Si)半導体の性能を超える新材料として炭化ケイ素(SiC)※1や窒化ガリウム(GaN)※2が盛んに研究されています。酸化ガリウム(β-Ga2O3)※3は、それらの材料を大きく上回る優れた材料物性を有しており、さらに「融液成長法」により高品質の単結晶基板を安価に製造することができます。これらの特徴から、β-Ga2O3パワーデバイス※4が実用化されれば、家電や電気自動車、鉄道車両、産業用機器、太陽光発電、風力発電などのパワーエレクトロニクス機器のさらなる低損失・低コスト化が可能となるため、国内外の企業および研究機関において研究開発が加速しています。

 株式会社ノベルクリスタルテクノロジーは、2020年から2022年までNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「戦略的省エネルギー技術革新プログラム※5/β-Ga2O3ショットキーバリアダイオードの製品化開発」プロジェクトで、β-Ga2O3ショットキーバリアダイオード(SBD)※6の製品化開発に取り組んできました。これまでに本プロジェクトにおいて、β-Ga2O3100mmエピウエハーの高品質化※7やアンペア級・1200V耐圧のβ-Ga2O3SBDの開発※8に成功するなど、継続的に大きな成果を上げてきました。今回は、β-Ga2O3SBDの実用化に向けて、電流連続型PFC(力率改善)回路※9に開発中のβ-Ga2O3SBDを搭載し、評価を行いました。その結果、回路の出力電圧390V、出力電力350Wという高出力動作の実証に成功しました。

 高出力で実機動作を確認したのは国内初です。

 また、本用途で広く使用されるSi製のファストリカバリーダイオード(Si FRD)※10と電力変換効率を比較したところ、1%の効率改善という結果が得られ、省エネ性にも大変優れていることが確認できました。本実機動作の確認により今後、中耐圧(600-1200V)のβ-Ga2O3SBDがパワーエレクトロニクス機器に採用されることが期待されます。


2.今回の成果

 大出力電源での電流連続動作の実証

 今回開発したβ-Ga2O3SBD(図1)を高出力(350W)電源のPFC回路(図2)に搭載し、電流連続動作の実証試験を行いました。図3は電源動作時のβ-Ga2O3SBDとSi FRDの電流ICA(青い線)と電圧VCA(赤い線)の時間変化を示したものです。縦軸の1マスは、電流については2A、電圧は100Vとなります。図3のダイオードの電圧波形より、逆方向には390Vの電圧が印加されていることが確認できます。その後、逆方向から順方向に電圧が切り替わると、ダイオードの順方向に電流が流れる際の電流波形ICAは最大で8Aの台形波※11となっており、電流連続動作の確認ができました。図4はβ-Ga2O3SBDとSi FRDの逆回復リカバリー特性※12を示したものです。赤い線(VCA)がダイオードに印加される電圧を示し、青い線(ICA)がダイオードを流れる電流を示します。β-Ga2O3SBDとSi FRDのそれぞれのグラフの中央から左側が、電圧を順方向に印加したときの電流が流れている状態を示したものです。中央から右側が電圧を順方向から逆方向に切り替えたときの電流が流れにくくなる様子を示したものとなります。Si FRDに比べてβ-Ga2O3SBDの逆回復リカバリー電流が大幅に抑制されていることも確認できました。これらの動作確認を行った後、回路の入力電力に対する出力電力の割合(電力変換効率)を比較したところ、β-Ga2O3SBDはSi FRDよりも1%効率が改善されていることを確認しました(表)。

図1 開発したβ-Ga<sub>2</sub>O<sub>3</sub>SBDパッケージ写真

図1 開発したβ-Ga2O3SBDパッケージ写真


図2 評価用電源のPFC回路図とβ-Ga<sub>2</sub>O<sub>3</sub>SBDの搭載箇所

図2 評価用電源のPFC回路図とβ-Ga2O3SBDの搭載箇所


図3 電源回路での動作波形 (a)β-Ga<sub>2</sub>O<sub>3</sub>SBD搭載 (b)Si FRD搭載

図3 電源回路での動作波形 (a)β-Ga2O3SBD搭載 (b)Si FRD搭載


図4 逆回復リカバリー特性 (a)β-Ga<sub>2</sub>O<sub>3</sub>SBD搭載 (b)Si FRD搭載

図4 逆回復リカバリー特性 (a)β-Ga2O3SBD搭載 (b)Si FRD搭載


3.今後の予定

 (株)ノベルクリスタルテクノロジーは、今回開発したβ-Ga2O3SBDの4インチファウンドリラインでの製造プロセスの確立を進めます。あわせて、さらなる高性能化を目指し、トレンチ構造を採用した次世代β-Ga2O3SBDの開発も進める予定です。また、反転型MOS(Metal-Oxide-Semiconductor)トランジスタ※13の研究開発も、本開発成果を活用しながら進めていきます。

 本成果により、β-Ga2O3パワーデバイスは、太陽光発電向けパワーコンディショナー、産業用汎用インバーター、電源などのパワーエレクトロニクス機器の高効率化・小型化、自動車の電動化や空飛ぶクルマなどの電気エネルギーの効率利用への貢献が期待できます。

 産業用汎用インバーターや電源へのβ-Ga2O3SBDの普及を皮切りに、さまざまなパワーエレクトロニクス機器への展開により、消費電力の低減を通じて、2030年の日本における省エネ効果量として10万kL/年(原油換算)を目指します。


注釈

※1 炭化ケイ素(SiC)
ケイ素と炭素の化合物で、ワイドギャップ半導体の一つです。
※2 窒化ガリウム(GaN)
ガリウムと窒素の化合物で、ワイドギャップ半導体の一つです。
※3 酸化ガリウム(β-Ga2O3
ガリウムと酸素の化合物で、ワイドギャップ半導体の一つです。
※4 パワーデバイス
高耐圧、高電流を制御することが可能な半導体素子のことで、インバーターなどの電力変換機器に用いられます。
※5 戦略的省エネルギー技術革新プログラム
概要:戦略的省エネルギー技術革新プログラム
※6 ショットキーバリアダイオード(SBD)
ショットキー接合と呼ばれる半導体と金属を接合させたときに、電流が一方向にしか流れない整流性を利用したダイオードです。ショットキー接合型ダイオードは、PN接合型ダイオードと比較して、スイッチング損失が小さいという利点があります。
※7 β-Ga2O3100mmエピウエハーの高品質化に成功
参考:NEDOリリース(2022年3月14日)「キラー欠陥を従来の10分の1に低減した第3世代酸化ガリウム100mmエピウエハーの開発に成功」
※8 アンペア級・1200V耐圧のβ-Ga2O3SBDの開発
参考:NEDOリリース(2021年12月24日「世界初、アンペア級・1200V耐圧の「酸化ガリウムショットキーバリアダイオード」を開発」
※9 電流連続型PFC(力率改善)回路
300W以上の電源回路でコイルのピーク電流を抑え、小型化するために採用される電源回路方式です。
※10 ファストリカバリーダイオード(Si FRD)
シリコン半導体を用いたPN接合ダイオードで、順・逆方向の導通の切り替えに要する時間を重金属拡散などで短くしたものです。
※11 台形波
電流連続型回路での典型的な電流波形です。電流不連続回路では三角波波形となります。
※12 逆回復リカバリー特性
ダイオードへの印加電圧が順方向から逆方向に切り替わる際の電流や電圧の経時変化の挙動のことです。

※13 反転型MOS(Metal-Oxide-Semiconductor)トランジスタ
N型層とP型(高抵抗)層を形成する2種類の不純物を2回に分けて必要な領域にイオン注入して形成したMOSトランジスタです。反転型では、ゲートに正電圧を印加した場合、絶縁膜/P型(高抵抗)層界面に電子が蓄積して、電流が流れます。

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