全固体リチウムイオン電池の早期実用化に向けた研究開発を始動―産学官の材料評価技術を基軸とする研究開発基盤構築を推進―(NEDO)
NEDOは、全固体リチウムイオン電池(LIB)の早期実用化に向け、「次世代全固体蓄電池材料の評価・基盤技術開発」(以下、本事業)を始動しました。
本事業は、自動車・蓄電池・材料メーカーなどの33法人が組合員として参画する技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)を代表機関に、大学・公的研究機関16法人が連携・協調して実施します。固体電解質間や活物質との界面(固固界面)の物質移動を伴う全固体LIBの性能向上と蓄電池材料開発の加速のため、これまでの技術成果を深化・発展させ、「材料評価基盤技術開発」や「全固体LIB特有の現象・機構解明」、「電極・セル要素技術開発」の開発サイクルを効率よく回すことで、原理現象解明に基づく研究開発基盤の構築を推し進めます。
NEDOは本事業での成果を展開することで、蓄電池・蓄電池素材産業の競争力強化と、全固体LIBおよびその材料の開発を促進します。
概要
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、自動車からの二酸化炭素(CO2)排出量の大幅な削減が世界的に求められている中、電動車の普及拡大に伴い蓄電池市場の急速な拡大が予想されます。このような背景の下、液系LIBの主力市場がスマートフォンなどの民生用から電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)などの電動車用に移り、需要が大幅に拡大したことで国内蓄電池メーカーも生産・販売量を増やし、2020年時点で20%前後のシェアを有しているものの、国外の蓄電池メーカーにシェアを奪われつつあります。また、主要なLIB材料である正極活物質、負極活物質、有機電解液でも、生産量は増加しつつも2020年時点で10%台のシェアにとどまっています。
現行のEV・PHEVに搭載されている有機電解液を用いた液系LIBに対し、固体電解質を用いた全固体LIBは、電池パックの安全・冷却系の簡素化による体積エネルギー密度の向上、急速充電の実現などが見込める次世代の高性能蓄電池です。一方で、図1に示すように次世代の全固体LIBの実現には、固体電解質間や活物質との界面(固固界面※1)形成とその維持が本質的な技術課題です。その課題を解決するためには、イオン伝導性などの性能が向上した固体電解質をはじめ、全固体LIB向けにカスタマイズされた正極・負極材料などのさらなる性能向上が不可欠です。性能向上に伴い、材料評価技術の高度化や評価指標の拡大など、材料評価基盤の強化が必要であると同時に、新材料の適用を軸とした電極・セルの要素技術開発と、これらの開発に対する、全固体LIB特有の現象・機構解明と、それに基づく固固界面の課題解決に向けた知見・指針提示が求められています。
このような背景の下、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は全固体LIBの実現と社会実装に向け、産業界の共通指標である材料評価技術を中心とした研究開発基盤の構築を進めてきました。「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第1期)」(2013年度~2017年度)では、液系LIB用材料とともに、全固体LIBの基軸材料となる硫化物系固体電解質などの特性評価に適用するラボレベルの標準電池モデルのプロトタイプを開発しました。さらに同第2期(2018年度~2022年度)では、液系LIBと同様の製法技術を用いた硫化物系全固体LIBの標準電池モデルを開発し材料評価の基礎的基盤を構築するとともに、一般的な液系LIBに迫るエネルギー密度(450Wh/L)を中型セルサイズで実証しました。今般始動した本事業では、硫化物系固体電解質を用いた全固体LIBの性能向上とそれに必要な蓄電池材料の開発促進のため、産業界の協調領域としての材料評価技術の開発を軸とした研究開発基盤を構築していきます。
本事業での成果を展開することで、蓄電池・蓄電池素材産業の競争力強化と、全固体LIBおよびその材料の開発を促進します。
図1 全固体LIBの充放電サイクルに伴う固固界面の課題(イメージ図)
実施事業と採択テーマ
固固界面の物質移動を伴う全固体LIBの性能向上とそれに必要な蓄電池材料の開発加速のため、図2に示した開発サイクルを効率よく回すことにより、原理現象解明に基軸をおいた研究開発基盤構築を推進します。
【1】事業名
次世代全固体蓄電池材料の評価・基盤技術開発
【2】予算
18億円(2023年度)
【3】期間
2023年度~2027年度(予定)
【4】2023年度(委託)事業内容
研究開発項目:次世代全固体LIB基盤技術開発
(1)材料評価基盤技術開発
標準電池モデルをはじめとする物差しとしての次世代全固体LIB材料の評価基盤技術を開発します。本成果の適用により、新材料の得失を的確に評価し、開発へ詳細にフィードバックすることで、材料開発の促進と適用までの期間短縮を図ります。
(2)全固体LIB特有の現象・機構解明
サイエンスに基づく粒子接触・界面、劣化など、固固界面をはじめとする全固体LIB特有の機構の解明と、得られた知見に基づく電極・セル要素技術開発への指針提示およびそのための高度分析・解析技術の構築に取り組みます。
(3)電極・セル要素技術開発
次世代材料の提案を行うとともに、材料性能を十分に引き出すことや固固界面の課題を解決することで全固体LIBの性能向上につながる電極・セル要素技術を開発します。開発された技術は標準電池モデルの開発に適用します。
図2 研究開発基盤構築を推進する開発サイクル(イメージ図)
【5】実施予定先
技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)【代表機関】
国立研究開発法人産業技術総合研究所
国立研究開発法人物質・材料研究機構
国立大学法人京都大学
国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学
国立大学法人東京工業大学
国立大学法人豊橋技術科学大学
国立大学法人名古屋工業大学
国立大学法人奈良国立大学機構奈良女子大学
国立大学法人北海道国立大学機構北見工業大学
国立大学法人北海道大学
国立大学法人横浜国立大学
公立大学法人大阪大阪公立大学
学校法人早稲田大学
一般財団法人電力中央研究所
一般財団法人日本自動車研究所
一般財団法人ファインセラミックスセンター
(上記17法人による連名提案)
(本事業に参画するLIBTEC組合員)(順不同)
トヨタ自動車(株)、日産自動車(株)、(株)本田技術研究所、マツダ(株)、(株)GSユアサ、パナソニック ホールディングス(株)、ビークルエナジージャパン(株)、マクセル(株)、(株)村田製作所、三井金属鉱業(株)、出光興産(株)、旭化成(株)、(株)ENEOSマテリアル、(株)大阪ソーダ、関西ペイント(株)、(株)クラレ、(株)小松製作所、(国研)産業技術総合研究所、住友金属鉱山(株)、住友化学(株)、大日本印刷(株)、東亞合成(株)、東レ(株)、凸版印刷(株)、(株)日本触媒、日置電機(株)、富士フイルム(株)、(株)堀場製作所、三井化学(株)、三菱ケミカル(株)、ヤマハ発動機(株)、(株)アイシン、AGC(株)の33法人※2
注釈
- ※1 固固界面
- 固体-固体界面を意味します。全固体リチウムイオン電池は、液系リチウムイオン電池の電解液が固体電解質に置き換わるため、正極-固体電解質、負極-固体電解質、固体電解質-固体電解質間の固固界面が存在します。
- ※2 (国研)産業技術総合研究所は、委託先およびLIBTEC組合員として本事業に参画しています。
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