20種類の翻訳因子の持続的な再生産を達成~自律的に増殖し続ける人工細胞の構築に期待~(JST)

2025.4.7更新

ポイント

  • 生命の根幹的な特徴である自己複製の能力を人工的に再現することは、生命の理解と新しい応用につながる。
  • 本研究では、たんぱく質合成に必須な20種類のアミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)を、試験管内で持続的に再生産することに成功した。
  • この成果は自己複製可能な人工細胞の実現に向けた重要な一歩であり、将来的には生物に頼らない効率的で制御性の高い物質生産システムの開発につながる。
  • <概要>

    東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻の萩野 勝己 大学院生、市橋 伯一 教授(兼:同研究科 附属先進科学研究機構/同大学 生物普遍性連携研究機構)、理化学研究所 生命機能科学研究センターの益田 恵子 研究員、清水 義宏 チームディレクターらは、核酸やたんぱく質といった無生物材料のみを用いて、生物の必須機能である「たんぱく質合成」装置の一部を持続的に再生産する分子システムの構築に成功しました。
    生命の特徴である自己増殖の能力を人工的に再現することは、生命科学における重要な課題です。自己増殖を達成するためには、たんぱく質の合成機構自体を自ら作り出すシステムが必要ですが、いまだそのようなシステムは構築されていませんでした。今回、本研究グループは、たんぱく質合成に必要な20種類のアミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)について、1)遺伝子配列の最適化、2)たんぱく質合成システムの組成の改良、3)活性の高い酵素の利用、4)遺伝子発現を阻害する要因の軽減、5)発現バランスの最適化、という5つの改良を組み合わせ、すべてのaaRSを自ら作り出すことで、元の翻訳活性を維持し続けることのできるシステムの開発に成功しました。
    この研究成果は、完全な自己増殖能を持つ人工細胞の実現に向けた重要な一歩となります。今後、このシステムにさらに必要な遺伝子を追加していくことで、将来的には医薬品開発や物質生産などのバイオものづくりに利用可能な、より制御性の高い物質生産システムの開発につながることが期待されます。
    本研究成果は、米国東部時間2025年4月2日に米国科学誌「Science Advances」のオンライン版で公開されました。

    本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)(課題番号:JPMJCR20S1)の支援により実施されました。


    <プレスリリース資料>

    本文PDF(690KB)


    <論文タイトル>

    “Sustainable regeneration of 20 aminoacyl-tRNA synthetases in a reconstituted system toward self-synthesizing artificial systems”
    DOI:10.1126/sciadv.adt6269


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