キラリティと超伝導の協奏が生む巨大な超伝導整流~らせん構造が作るスピン三重項クーパー対~(JST)
ポイント
<概要>
近年、らせん状の構造を持つキラル分子中を電子が通過すると、通過した電子に巨大なスピン偏極が誘導される、との報告が相次いでいます。この現象は、「キラリティ誘起スピン選択性(Chirality-Induced Spin Selectivity:CISS)」と呼ばれ、世界中で爆発的に研究が行われているトピックです。このCISS効果には、キラルな構造内に本質的に存在する、電子とスピンの非自明な結合機構が関与していると考えられています。しかし、その傍証は多数報告されているものの、それを定量的に評価することは困難であり、CISS研究における重要な課題とされてきました。
この課題を解決すべく、今回、自然科学研究機構 分子科学研究所 協奏分子システム研究センター/総合研究大学院大学の佐藤 拓朗 助教、後藤 拓 大学院生、山本 浩史 教授らの研究チームは、キラルな対称性を持つ有機超伝導体に着目し、スピン軌道相互作用と密接に関連する非相反性を検証しました。その結果、超伝導状態において、理論予測値を大きく上回る巨大な非相反伝導を観測することに成功しました。特筆すべきは、このような巨大応答を、非相反伝導に必須とされるスピン軌道相互作用が非常に小さな有機物質中で発現した点です。これにより、キラリティがもたらす非自明な電子の運動とスピンとの結合が示唆され、さらにその強度が通常の有機物質におけるスピン軌道相互作用から予想される値を大幅に超えることが分かりました。また、キラリティが誘導するスピン三重項クーパー対の生成を仮定すると、観測された巨大非相反効果が説明できることも明らかになりました。本成果は、キラリティという特徴的な構造を軸に、新たな超伝導デバイスや機能性設計の指針を与えることが期待されます。
本研究成果は、2025年4月15日(現地時間)にアメリカの学術誌「Physical Review Research」のオンライン版で公開されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究事業 さきがけ(JPMJPR2356)、JSPS 科研費(24K01331、23H00291、23H00091 and 21H01032)、自然科学研究機構 OPEN MIX LAB事業(OML012301)、自然科学研究機構 分子科学研究所 課題研究(23IMS1101)、三菱財団助成の支援の下で実施されました。
<プレスリリース資料>
本文PDF(359KB)
<論文タイトル>
“Sturdy spin-momentum locking in a chiral organic superconductor”
DOI:10.1103/PhysRevResearch.7.023056
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