共線反強磁性異常金属におけるゼロ磁場異常ホール効果の発見~機能性反強磁性体の開発へ新たな指針~(JST)

2025.4.21更新

ポイント

  • 層間に磁性元素を挿入した遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)V1/3NbS2において、磁化のない共線反強磁性と非フェルミ液体状態の中で異常ホール効果が生じることを発見しました。
  • (電荷を運ぶ準粒子が定義できない)非フェルミ液体状態の中で巨大異常ホール効果が発見されたのは初めてのことであり、従来のベリー曲率の枠組みを超えた理解が必要です。 
  • 本研究で発見された物質は、新たな機能性反強磁性体であり、電子のスピンを使った情報処理・通信デバイスにつながることが期待されます。また本研究は反強磁性体における異常ホール効果増強指針を与え、さらなる新奇強相関トポロジカル状態の実現につながることが期待されます。
  • <概要>

    東京大学 大学院理学系研究科のMayukh Kumar Ray(マユク・クマール・レイ) 特任研究員(研究当時)、Mingxuan Fu(ミンシュアン・フー) 特任助教、酒井 明人 講師、有田 亮太郎 教授、中辻 知 教授らによる研究グループは、米国 ジョンズ・ホプキンス大学 Collin Broholm(コリン・ブロホルム) 教授らと共同で、巨大な異常ホール効果が磁化のない共線反強磁性と非フェルミ液体状態の中で生じることを発見しました。本発見は、電子相関とトポロジーが関連した新しい物理現象です。「機能性反強磁性体」はトポロジカルな電子構造による巨大応答を示すため、次世代の高速・省エネスピントロニクスデバイスとして注目を集めています。特に科学技術振興機構(JST) 未来社会創造事業ではスピントロニクス光電融合デバイスの開発を進めていますが、現状では候補となる機能性反強磁性体がMn3X(X=Sn,Ge)に限られる点が問題でした。本研究はチューニングが容易なTMDという新たなクラスの反強磁性体で同様な機能が現れることを示し、新たな機能性反強磁性体の開発指針を与えます。
    本研究成果は、2025年4月18日付(現地時間)で「Nature Communications」に掲載されます。

    本研究は、科学技術振興機構(JST) 先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)「トポロジカル物質に基づく革新的量子エレクトロニクスの創成」(研究代表者:中辻 知、課題番号:JPMJAP2317)、同 未来社会創造事業 大規模プロジェクト型「スピントロニクス光電インターフェースの基盤技術の創成」(研究代表者:中辻 知、課題番号:JPMJMI20A1)の支援により実施されました。特に、科学技術振興機構(JST) ASPIREプログラムの支援がBroholm 教授のチームとの研究協力関係をより深め、研究進捗を加速させました。またBroholm 教授はASPIRE資金により本研究のグループに短期訪問しており、その際の密接な意見交換により、本成果につながりました。


    <プレスリリース資料>

    本文PDF(562KB)


    <論文タイトル>

    “Zero-field Hall effect emerging from a non-Fermi liquid in a collinear antiferromagnet V1/3NbS2”
    DOI:10.1038/s41467-025-58476-0


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