強誘電体界面の電荷分布直接観察に成功~強誘電体デバイスの理解と性能向上を加速~(JST)
<ポイント>

- 強誘電体内部のドメイン界面の電荷状態はデバイス特性を支配する主要因と考えられてきたが、その電荷分布を観察することは極めて困難であった。
- 最先端電子顕微鏡により、強誘電体ドメイン界面の電荷分布の直接観察に成功した。
- 本成果は、積層セラミックコンデンサー(MLCC)などの強誘電体デバイスのより詳細な特性理解と性能向上につながると期待できる。
JST 戦略的創造研究推進事業 ERATOにおいて、東京大学 大学院工学系研究科 附属 総合研究機構の関 岳人 講師、遠山 慧子 助教、髙本 昌弥 大学院生(現 株式会社村田製作所)、柴田 直哉 機構長・教授、幾原 雄一 東京大学特別教授らは、強誘電体ドメイン界面における電荷分布の直接観察に成功しました。
強誘電体セラミックスを用いた積層セラミックコンデンサー(MLCC)は、スマートフォン、パソコン、テレビ、車載機器など、さまざまな機器の電子部品として利用されています。モバイル機器や家電製品、IoT機器などの発展に伴い、MLCCのさらなる小型化、大容量化、高信頼性化が求められています。MLCCは、多数の強誘電体層と内部電極が交互に積層した構造を持っており、さらに強誘電体層の内部には、分極方向の異なるドメイン(分域)とナノ(10億分の1)メートルスケールのドメイン界面が存在しています。このドメイン界面には、分極変化による電荷と、その電荷と電気的なバランスをとるためにたまった逆符号の電荷が存在すると考えられており、その電荷状態が、電圧を印加する際にドメインが再配列する現象や漏れ電流の発生などに影響を与え、MLCCの性能や信頼性を大きく左右すると考えられてきました。しかし、強誘電体ドメイン界面の電荷状態をナノレベルで直接計測することは、これまで極めて困難でした。
今回、関 講師らは、最先端電子顕微鏡を用いた局所電荷観察とピコ(1兆分の1)メートルスケールの原子変位の観察を組み合わせることにより、強誘電体ドメイン界面に形成されたナノメートルスケールの電荷分布を直接計測することに成功しました。本研究は、強誘電体材料におけるドメイン界面の移動現象や電気伝導性の解明に向けた大きな一歩であり、今後の強誘電体デバイスの真の特性理解と性能向上につながることが期待されます。
本研究成果は、2025年6月13日(米国東部夏時間)に米国科学誌「Science Advances」のオンライン版に公開されました。
本成果は、以下の事業・研究領域によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)
研究領域: 「柴田超原子分解能電子顕微鏡プロジェクト」(JPMJER2202)
(研究総括:柴田 直哉(東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構 機構長・教授) )
研究期間:2022年10月~2028年3月
JSTは本プロジェクトで、極低温から高温までの温度領域において原子スケールの構造および電磁場分布を同時に観察することを実現し、物質・生命機能の起源を直接「観る」ことができる、従来の原子分解能電子顕微鏡を超えた「超」原子分解能電子顕微鏡とも呼ぶべき新たな計測手法を構築します。
その他、JST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)(課題番号:JPMJPR21AA(関 岳人)、JPMJPR24J7(遠山 慧子))、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金基盤研究(A)「材料・デバイス界面空間電荷層直接観察手法の開発と応用(研究代表者:柴田 直哉、課題番号:JP25H00793)」、同 科学研究費(課題番号:JP22H04960、JP24K01294)による支援を受けて行われました。
また本研究は、東京大学 大学院工学系研究科「次世代電子顕微鏡法社会連携講座」、東京大学・日本電子産学連携室、文部科学省 先端マテリアルリサーチインフラ事業(東京大学 マテリアル先端リサーチインフラ微細構造解析部門)の支援を受けて実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(832KB)
<論文タイトル>
- “Real-space observation of polarization induced charges at nanoscale ferroelectric interfaces”
- DOI:10.1126/sciadv.adu8021
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