フルオロプラスチックの室温分解と再利用に成功~高い安全性と持続可能性を両立したフッ素資源循環に貢献~(JST)

ポイント
黒色粉末を「KFブラック」と命名
名古屋工業大学の服部 雅史 氏(共同ナノメディシン科学専攻1年)、Debarshi Saha 研究員(研究当時:生命・応用化学類)、Muhamad Zulfaqar Bacho 氏(共同ナノメディシン科学専攻3年)、柴田 哲男 教授(生命・応用化学類)らの研究グループは、フルオロプラスチック(フッ素系高分子)を常温・常圧・短時間で分解し、KFへと変換する革新的なメカノケミカル合成技術の開発に成功しました。
この手法は、多様なフルオロプラスチックに適用可能であり、特にフッ素樹脂「ポリフッ化ビニリデン(PVDF)」に対しては、わずか1時間でほぼ定量的に分解できるという極めて高い効率性を示しました。また、PVDFの分解生成物は黒色粉末で、研究チームはこれを「KFブラック」と命名しました。KFブラックは水洗処理により純粋なKFとして回収可能であるだけでなく、そのまま有機化合物へのフッ素導入反応に利用できる実用的なフッ素化試薬としても機能します。従来、KFは天然資源であるCaF₂から有毒なHFを経由して製造されてきました。本技術は、廃棄予定のPVDFを原料にHFを一切用いずにKFを得ることができるため、高い安全性と持続可能性を両立したフッ素資源循環技術として注目されます。また、同様に安定性の高いポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の分解にも応用可能であることが確認され、有機フッ素化学に新たな地平を切り開くと同時に、環境調和型社会の実現に貢献する技術として期待されます。
本研究成果は、国際学術誌「Nature Chemistry」のオンライン速報版に、2025年6月27日に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST研究領域「分解・劣化・安定化の精密材料科学」(研究総括:高原 淳(九州大学))における研究課題「フッ素循環社会を実現するフッ素材料の精密分解」(研究代表者:柴田 哲男)(課題番号JPMJCR21L1)の支援を受けて実施しました。
<プレスリリース資料>
- 本文PDF(552KB)
<論文タイトル>
- DOI:10.1038/s41557-025-01855-3
“Mechanochemical pathway for converting fluoropolymers to fluorochemicals”
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