1.ESD対策(静電気放電対策)とは何か、の前に静電気とは?

■静電気のイメージ

ESD対策(静電気放電対策)に関して述べる前に、静電気とは何かをお伝えしたいと思います。まず静電気にどのようなイメージをお持ちでしょうか?「静電気」はよく耳にする言葉ですが、子供のころなら下敷きで髪の毛を逆立てたり、セーターを脱ぐ時やドアを開けるときにパチっと来たりするのも「静電気」です。また、自然環境であれば落雷も「静電気」です。ガソリンスタンドでは「静電気」に対する注意書きを見かけます。静電気」と「一般的な電気」との違いは、とどまって動かない=帯電する電気が「静電気」のことで、「一般的な電気」は導線を伝って流れて動力源として働きます。ところが、とどまって動かない静電気ですが、帯電量が大きくなり電気の流れやすい物体がそばに近づくと、「放電」という現象が発生しトラブルとなります。また、引き付ける力もあるため、「吸着」という現象でもトラブルとなっています。

風船_ドア_雷

■静電気発生の原因

静電気は、以下のような原因で発生します。

摩 擦: フィルム、紙、ベルト、粉体(物体がついたり離れたりして帯電する)
剥 離: フィルム、シート、紙、衣類(物体が離れる際に電子が移動する)
流 動: 液体、粉体、フィルター(流れ動く際に静電気を蓄積する)
噴 出: 蒸気、加圧液体、塗料(スプレーすることでワークも人体も帯電する)
破 壊: 固体、粉体、氷(粉砕する際に破壊エネルギーが発生する)
誘 導: 絶縁された導体(電気の流れ道のない導体は静電気を蓄積する)

静電気発生の原因
画像1.静電気発生の原因

■静電気発生の原理

私たちの身の回りにあるものは、すべてプラスの電気とマイナスの電気を持っています。静電気はその電気が移動することによって「バランス」が崩れ、「偏り」ができた状態です。この電気の移動を簡略化した図で説明します。

  • ①普段は、プラスとマイナスが同数でバランスが保たれています。
  • ②2つの物質が触れ合うと、不安定な電気が移動を始めます。
    ただし、この状態では電気が移動しただけで、接触している2つのもの全体ではバランスが取れています。
  • ③接触していた2つの物質を引き剥がすと、電気の数に「偏り」が生じます。
    この時、電気を受け取った方は「マイナスに帯電」し、電気を出した方は「プラスに帯電」します(帯電)。
  • ④そしてマイナスあるいはプラスに帯電している物質がアースしてある金属に近づくと、一気に電気の移動が起きます(放電の例)。
静電気の原理
画像2.静電気の原理

■静電気発生の傾向

静電気対策について、帯電列の知識が活かせるかもしれません。帯電列では、2つの物質が接触や摩擦して帯電するときに、その性質によってプラスに帯電するのか、マイナスに帯電するのかが決まることを表しています。例えば、ナイロンとテフロンを擦り合わせた場合、電子が移動しナイロンはプラスに帯電し、テフロンはマイナスに帯電します。

静電気対策として、物質同士が接触、摩擦する可能性がある場合は、帯電列上でできるだけ近接した位置にある材料を選ぶようにすると帯電量が少なくなります。逆に、帯電列中の位置関係が遠い物質の摩擦は、帯電量が大きくなる傾向があります。このような知識が静電気対策で糸口になるかもしれません。

帯電列
画像3.帯電列

■導電体vs不導体(絶縁体)

導電体とは

電気をよく通す物体 金属(金、銀、銅、アルミニウム、鉄など)。電気抵抗値が10^4Ω以下。

不導体とは

電気を通さない物体 ガラスや陶器、樹脂・木材など。絶縁体とも言います。電気抵抗値が10^9Ω以上。

参考に「半導体」という言葉もよく聞きます。これは、不導体と導電体の中間の性質で、電気を適度に通す物体です。シリコン、ゲルマニウムなどがあります。この性質を利用してトランジスタや集積回路が作られています。

不導体/導体の例
画像4.不導体/導体の例

導体が帯電した場合は、図のように均一に帯電しますが、不導体の場合は不均一に帯電します(全面が同じ電位であるとは限りません)。

■静電気の単位

一般的には電圧の単位であるVボルト、またはKVキロボルトを使います。これ以外にも、静電容量を表すFファラッドや静電力を表すCクーロンなどがあります。



2.静電気によるトラブル

■静電気障害の事例

静電気による障害は、図のようなものがあります。ドアノブの電撃、成形品のスタッキング不良、フィルムの吸着不良、金型からの取り出し不良、レンズや導光板への塵埃吸着、静電気放電による回路破壊、真空吸着痕による塗装不良、極小パーツの装着不良、パーツフィーダの整列不良、印刷インクのにじみ、静電気放電による粉塵爆発などです。

事例ピクト
画像5.事例ピクト

■一般的に身近なもの

身近な静電気は、ドアノブや車のドアの電撃、衣類のまとわりつきやセーターのぱちぱちなどです。どれくらいの電圧がかかっているかというと、この表をご覧ください。3kVぐらいから刺激を感じ始めます。

人体の帯電電圧と電撃の強さ
画像6.人体の帯電電圧と電撃の強さ

■業界別の静電気問題

様々な業界でよくある事例を紹介します。

  • セミコンダクタ(半導体/液晶):回路破壊、ガラス破壊、異物付着
  • 電気・電子(基板/PC/ロボット):回路破壊、誤動作、異物付着
  • 化学(繊維/フィルム/樹脂/粉体):人体電撃、異物付着、密着、着火
  • 食品医薬品化粧品(衣類/包装):異物付着、整列不良
  • 印刷・表面処理(紙/シート/樹脂):印刷不良、密着

■静電気のクーロン力や静電破壊

静電気には引き合ったり反発したりする力、「クーロン力」があります。静電気を帯びているもの同士が磁石のS極とN極のように、同一の極性同士なら反発し合い、異なる極性なら引き合う力のことです。ものが引っ付いてはがれなかったり、ほこりを引き寄せたりとトラブルの原因となります。また、静電破壊というトラブルがあります。これは静電気の放電によって、一時的に高い電圧の電流が流れ、回路に傷をつけるといった現象です。

<クーロン力による影響>

  • ゴミの付着
  • 紙・フィルム等の2枚取り(吸着)
  • 塗装の表面に付着したゴミのよるムラや外観不良
  • パーツフィーダの詰まり
  • 成形品の排出ミスや型残り
  • 切削加工時の切粉の付着など

<静電破壊>

  • 知らないうちに部品を破壊
  • 人体モデル(HBM)
  • マシンモデル(MM)
  • デバイス帯電モデル(CDM) など

■湿度と帯電電位の関係

また、静電気発生源による帯電量の違いを表にしたものがあります。ご覧ください。このように、高い電圧が作業の中で発生しており、確実な対策が必要となっています。

湿度と帯電電位の関係
画像7.湿度と帯電電位の関係


3.静電気対策

■静電気対策の基本

静電気対策は、基本的には次の対策を検討し、静電気によるトラブルを防ぐことになります。

  • ①静電気を発生させない(発生を未然に防ぐ/発生しても少ない量に抑える)方法として、絶縁物を近づけない。摩擦や剥離などを最小限に抑えます。
  • ②静電気を帯電させない(発生した静電気を速やかに逃がし、漏洩させて滞留させない)方法として、ゆっくり帯電を逃がします。
  • ③静電気を放電させない(爆発や引火の恐れのある場所で火花放電させないようにする)方法として、金属や導体に接触する前に静電気を除去します。

■静電気の発生を抑える(未然に防ぐには)

静電気の発生を未然に防ぐ/発生しても少ない量に抑える方法は、

  • ①湿度を高くする方法(加湿器、噴霧器などで湿度を管理する)相対湿度が低いと電荷の拡散が減少し、静電気の発生が多くなる。加湿対策で相対湿度を55±5%で管理するのが望ましい。
  • ②帯電防止剤を使う方法(空気中の水分を吸収して電気を逃げやすくする)
  • ③剥離や摩擦をゆっくりおこなう方法(急激な動作は大きなエネルギーを生みます)
  • ④帯電列を利用する方法(接触しても帯電量が上がらないよう物質を工夫する)
  • ⑤帯電物を近づけない(電位差のあるものを近づけると誘導で帯電が発生する)などです。

(著)株式会社ベッセル

4.静電気の歴史

静電気についての歴史背景から紹介する。静電気に関しての学術的な取り扱いが知られているのは、ギリシャ時代にさかのぼる。ギリシャの哲学者ターレスは、琥珀4の櫛などが糸くずなどを引きつける現象を冷静に観測し、その性質をある程度把握していた。残念ながら、ターレスの著作は現存していないので、当時の静電気に関する理解についてはこれ以上正確なことはわからない。文章として残されているのは、ローマ時代、プリニウスが表した「博物誌」(紀元77年)の中で、船のマストの先が青白く光る現象5、槍の先が光る現象などが記載されている。インドや中国でも神秘的なもの、神の使わしものなどとして雷の記述は多い。ギリシャ神話の神、ゼウスの武器でもあった。ところが、ヨーロッパでは、中世暗黒時代を迎えてサイエンスへの探求はなくなり、静電気が脚光を浴びるには、16世紀、ルネッサンスの登場を待たねばならなかった。英国エリザベス女王の侍医であったギルバート(William Gilbert)は、1600年ごろ、De Magnete 6 という著作で静電気現象の特徴を紹介している。彼は、検電器(図1 参照)を発明し、遮蔽効果などを磁力と比較している。

図1.ギルバート発明の検電器
画像8.ギルバート発明の検電器

ただし、タイトルからわかるように、本書の大半は磁気について書かれており、静電気は、わずか1節で語られているに過ぎない。当時は、電気の正体は不明であったが摩擦発電機の発明や、電気電導実験が繰り返され、多くの論文が発表されている。電気という名称もこの頃作られたようである。



5.ESD対策(静電気放電対策)の実際

静電気帯電は、物体表面が他の物体と接触すると必ず生じる現象である。帯電によって電位が高くなった物体が、接地(グラウンド)された物体など、電位が低い物体に接近すると、その電位差によって空気の絶縁破壊が生じ、静電気放電が発生する。このとき、帯電物体に蓄積された電荷(帯電電荷)が急激に移動することによって、瞬間的に大電流が流れることとなる。そのため、たとえば電子デバイスにおいては、過電圧印加による半導体の酸化膜の絶縁破壊、過電流によるIC内配線の熱的破壊などによるデバイスの故障・劣化や、静電気放電から輻射する電磁波が、電子回路へノイズとして加わり誤動作を引き起こすなどの障害の要因となる。特に近年は、電子デバイスの微細化や高速化、低動作電圧化に伴い、静電気放電への耐久性が低下している。

図2.静電気帯電の3基礎過程
画像9.静電気帯電の3基礎過程

各種製造現場においては静電気帯電によって発生する電圧を、静電気管理電圧として管理・制限しており、電子デバイスの製造工程などにおいては25~100V以下に、静電気放電への感受性が特に高いハードディスクドライブの磁気ヘッド・スライダー工程においては、1~10V程度以下に抑えることが求められている。

静電気帯電の防止には、導電性の物体に対しては接地(グラウンド)を行い、帯電した電荷を接地へ流出させることが最も簡易的な手法である。
導電性物体は、金属などだけではなく、人体も当てはまる。人体の場合は、接地(グラウンド)されたリストストラップの装着や、帯電防止用の靴・服・手袋の着用とともに、作業スペースの床や台の導電性の確保などの作業環境の整備が必要となる。

一方で、絶縁物の場合は、接地導体を絶縁物に接触させるだけでは帯電電荷を除去することはできない。主な絶縁物の帯電防止対策としては、対象の表面抵抗を低下させ、帯電電荷の漏洩を促進する方法が挙げられる。

手法としては、湿度の増加(おおむね50~60%以上)や、帯電防止材の塗布等が用いられる。これらの手法は、規則として取り入れるだけではなく、実際に作業者が効果的に行っているか、また、清掃などによりその効果が保持されているかなど、その効果を管理維持することが必要となる。

6.ESD対策(静電気放電対策)におけるイオナイザの選定

様々な対策によって、静電気を発生させないことが最も重要であるが、ESD対策(静電気放電対策)技術としてのイオナイザの選定とその使用方法状況によってはこれらを適用できない場合が多い。また、静電気対策をしたとしても、物体が接触することによって帯電は容易に発生してしまう。そのため、静電気が発生することにより、製品または工程に障害を及ぼす可能性がある場合には、帯電した電荷を強制的に中和する手法を、併せて取り入れることが好ましい。この手法として主に、イオナイザ(除電装置)が広く用いられている。

7.ESD対策(静電気放電対策)関連書籍



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