1.電波とは何か
電波とはElectric Waveの略である。「電波」の語源は 1893 年( 明治 26 年) "電気訳語集"で 伊藤潔氏が"Electric Wave"の訳語として示した「電波」 と考えられる。
また日本で最初の無線電信試験において松代松之助氏が試験の対象を「電気波」と呼んでいるので、電波は電気波由来として間違いないだろう、しかし試験の対象はHertzが定義した「(無線電信に適した)空間を伝搬する電磁波」そのものである。
Hertz
はこれを電気波と区別しているが、明治の先駆者はそうはしていない。
そして1950年制定の「電波法」において、欧米の標準語である"radio wave"に合わせる形で、周波数範囲で定義される用語となって現在に至ったと考えられる。
これは明らかにHertz が定義した電磁波である。
![空間の電磁波と線上の電気波](img/radio_figure01.png)
2.電波の語源(起源・由来)
「電波」 に対応する英語は和英辞書などで通常"Radio wave" とされる。
また、総務省のHP の電波法英語版のように単に"Radio" とされる場合もある。しかし、一部の辞書には"Electric wave" とある。
ネットには "Electromagnetic wave"との不正確な翻訳も見られる。
逆に英語の "Radio" については「 ラジオ( 受信機)」 または「 無線通信」 と訳した英和辞書がある。
さらに、同類語の"Radio
control" は多くの辞書で「ラジコンまたは無線操縦」とされ、「電波操縦」 とは一般に言わないようである。「電波」と"Radio"の対応が統一されていない。
加えて「電波は電磁波の略称である」と不正確な説明がネット検索で見つかるなど、混乱も見られる。
そこで「電波」と"Radio"、"Electric wave:電気波"、"Electromagneticwave:電磁波"という言葉の成り立ち、起源・由来を遡ることで、それらの正確な意味を探ることとする。
「名は体を表す」と言われるように、用語から基本的性質の一端を知ることができる。
現代における電波の定義は1950年制定の電波法( 第一章、第二条の一)で与えられるというのが一般的な認識であり、「電波とは、三百万メガヘルツ以下の周波数の電磁波をいう。」と記述されている。
つまり、電波とは「 特定の周波数以下の電磁波」 を電磁波全体から区別するために付けられた別名称であり、電磁波一般を意味するものではない(当然であるが電磁波の略称ではない)。
電磁波は周波数によって異なる性質を示す。
例えば、最も基本的な電離/ 非電離の区分がある。また電波についても、周波数によって伝搬特性や物質との相互作用などで様々な違いがあることから周波数帯で定義する中波、短波、マイクロ波などの別名称がある。
電波の上限の周波数は普遍ではなく時代と共に変えられてきた。これはradio wave やradio が当初は無線通信などの特定の用途を念頭にした用語として使用され、時代が進むに従いより高い周波数帯の利用が必要とされてきたからである。
3.電波の生みの親はHertz
今日「電磁波」 の最初の発見についての通説は、「Maxwellがその存在を数学的に推測( 予言) した後に Hertzが検証した」 となっている。
しかし正確に言えば、Maxwell は、「光は"Electromagnetic disturbance in the form of waves:波の姿をした電磁擾乱"である」と予言したのであって、光より遥かに周波数が低い電磁波、つまり radio wave(電波)の存在までは示唆していなかった。
Hertz
はこの方程式から( 光とは違って) 見えない電磁波(電波)が存在し得ることを推測し、Maxwell の1864 年の予言から 13 年後( 没後 9 年) の 1887 年、電波の発生と検出に必要な実験機器を考案制作して見事にその存在を実証した。
このことがその後の様々な電波利用の創出を可能にしたものであり、Hertz の功績は極めて大きい。
4.電磁波とは
電磁波とは、「アンテナ等の波源から外に向かって光速で拡散する電磁エネルギー」です。つまり「電界」と「磁界」という性質の異なる波が互いに作用しながら空間を伝わっていくエネルギーの波のことをいいます。
電磁波は、携帯電話やスマートフォンなどの無線機器、医療機器や電子レンジ,IH調理器などの家電製品、電力設備や鉄道、テレビやラジオ放送局など、現在生活においてわれわれの身近に多数存在します。
電界(または電場)は、電気の力が働く空間(または場所)をいい、電圧がかかっているものの回りに発生します。また磁界(または磁場)とは、磁気の力が働く空間(または場所)をいい、電流が流れている周りに発生します。
電界は電圧の大きさに比例し、あらゆる物質を伝播して帯電します。また磁界は電流の大きさに比例し、生き物の細胞レベルまで届き、コンクリートも貫通するほどのエネルギーをもっています。
電磁波は連続する波であり、1秒間に繰り返す波の数を「周波数(単位:ヘルツ)」、波の山から山までの長さを「波長」といいます。
また電磁波は周波数によって性質が異なります。3テラ~384テラヘルツの赤外線は暖かさを感じるため暖房器具などに使われます。人間や動物の眼で認識できる384テラ~789テラヘルツは可視光線と呼ばれます。789テラ~約3万テラヘルツの紫外線は殺菌作用や日焼けをおこす作用があります。さらに高周波帯のX線は物質を透過する特性があるため、レントゲン検査などに使われています。
5.電磁波の影響について
電磁波は、電子機器や各種センサー類あるいは心臓ペースメーカーなどに誤作動を引き起こす要因として知られており、また健康に害を及ぼす危険性があるといわれています。
とくに人体への影響については世界保健機構(WHO)が「電磁波の中でも超低周波磁界(300ヘルツ以下)と無線周波電磁界(10メガ~300ギガヘルツ)は発癌性があるかもしれない(ガソリンエンジン排ガスやクロロホルムなどと同じ2Bグループに分類されている)」という見解を出しており、海外ではさまざまな基準や規制を設ける国が近年増えています。
6.電磁波とMaxwell
電磁波とは「電磁場の周期的な変化が真空中や物質中を伝わる横波」と広辞苑に説明される。
電波の他、光やX 線など様々な電磁的波動の総称が電磁波であり、この説明は最も基本の概念であり、具体的性質を知るためにはより掘り下げた知識が必要である。
人が「電磁波」の存在を知ったのはMaxwellが「光は電磁波の一種である」と数学的に予言(Predict)した1864年からになる。
これはMaxwell 方程式と呼ばれる。
光の他にも例えば落雷に伴う電波雑音、紫外線など自然界には多くの電磁波が太古から存在するが、それらもMaxwell
方程式が無ければ分からなかった。
光電効果などの電離作用に関わる性質は扱えないが、現代でも電磁波の基本的な性質は概ねMaxwell 方程式から導出できる。
電磁波全体を扱ううえでMaxwell 方程式は現在でも最も重要な基礎理論である。
7.電磁波の特徴
「空間の電磁波」 は、
- ① 変動する電界と磁界で形成
- ② (何もない)空間を光速度で伝搬
- ③ 電界と磁界の力の向き( ベクトル) が波の進行方向と直角な面内に互いに直交して存在する"横波"
という性質を持つ。
多くの専門書で確認できる事項である。
波動であるから質量はない。
これらの基本的な特徴を理解するために、身近な例として携帯電話のアンテナが放射する電磁波(電波)の様子を図に示して解説する。単一周波数で連続的にアンテナから外の空間に伝搬するという理想モデルであり、携帯電話筐体の影響などは無視している。
図は中心の線状アンテナから外に向かって伝搬する電磁界が伝搬方向に対して直角な面内で振動する様子を示す(横波の特徴)。
![電波のポンチ図例](img/wave_figure01.jpg)