1. 電波吸収体の概要

電波吸収体は、電波を内部に取り込み熱に変換することで電波の強度を弱めることができる材料。主に電波を反射したくない箇所に取り付けることで反射を抑える目的で使用される。またその特性から、ノイズ抑制材や透過減衰器として利用することもある。

図1.電波吸収体の効果
図1.電波吸収体の効果

2. 電波吸収体の種類

電波吸収体は大きく分けて、ノイズ抑制シートと呼ばれる近傍界用の電波吸収体と、遠方界用の電波吸収体の2種類がある。
電波の発生源から1波長以内の範囲を近傍界と呼び、電波の特性インピーダンスが安定しない領域となる。また、この範囲では電波が電界放射か磁界放射かによってその性質が異なるため、電波吸収体も誘電性(導電性)のものか磁性のものかを選択するのが望ましい。しかし、一般的に近傍界の電界放射はシールド対策が容易である一方、磁界放射はシールドが難しいため、市場で多く使用されるノイズ抑制シートは磁性タイプがほとんどである。

次に、電波の発生源から1~2波長以降の範囲を遠方界と呼び、自由空間の特性インピーダンスが377Ωに固定されるため、電波吸収体の設計が可能になる領域である。
遠方界用電波吸収体は形状や周波数、利用用途など様々な分類があるが、電波吸収体の性能から主に以下の種類に分けられる。

図2.ノイズ抑制シートの例
図2.ノイズ抑制シートの例
  • フェライトタイル電波吸収体
    MHz帯の電波を吸収するタイル型の電波吸収体。主に3m法電波暗室や10m法電波暗室と呼ばれる放射エミッション測定用電波暗室で使用される。
    図3.フェライトタイル電波吸収体の例
    図3.フェライトタイル電波吸収体の例
  • 高減衰タイプ電波吸収体
    MHz~GHz帯の電波を広帯域かつ高減衰で吸収する電波吸収体。ピラミッド型やウェーブ型などがあり、電波暗箱や電波無響室の設備、反射が気になるところなど、最も汎用的に使用される。
    図4.高減衰タイプ電波吸収体の例
    図4.高減衰タイプ電波吸収体の例
  • 共振タイプ電波吸収体
    特定の周波数に絞って反射を抑えるように設計した電波吸収体で、一般的に薄いシート状であることが多く、性能を発揮するためには裏面が金属に密着している必要がある。主にGHz帯で使用され、無線LAN等に使用される2.4GHz、ETC通信で使用される5.8GHz、船舶用レーダーに使用される9.4GHzなど、用途・周波数によってラインナップされている。
    図5.共振タイプ電波吸収体の例
    図5.共振タイプ電波吸収体の例
  • 積層タイプ電波吸収体
    薄いシートを積層することにより、比較的薄い厚みで広帯域の電波の反射を抑えるように設計した電波吸収体。ウレタン素材のものが多いが、ゴムシートを積層させたものもある。性能を発揮するためには裏面に金属が必要。特定の周波数に絞って設計することも可能である。
    図6.積層タイプ電波吸収体の例
    図6.積層タイプ電波吸収体の例

3. 電波吸収体の特徴

電波吸収体には吸収性能を発揮させるため、誘電材料や磁性材料が使用される。誘電材料としてはカーボンやグラファイト、磁性材料としてはパーマロイやフェライトなどが一般的であり、これらを含有させることで電波吸収性能が発現する。
先に述べた通り、近傍界においては特性インピーダンスが安定しないため、周波数と減衰量の設計が難しい。そのため、ノイズ抑制シートは磁性材料を多量に配合することで磁性ノイズを効率的に引き寄せ、熱損失に変える方法がとられている。そのため、より損失の大きい材料を、より多く配合し、より厚みがあるノイズ抑制シートの方がノイズ抑制効果は大きい。
一方、遠方界用電波吸収体は、誘電材料や磁性材料を多く入れすぎると電波吸収体の特性インピーダンスが高くなり、反射量が多くなってしまうため、最適な配合で設計されている。
更に、高減衰タイプの電波吸収体では、ピラミッド型やウェーブ型などの形状を持たせることによって、平面波で入射する電波の特性インピーダンスと徐々に整合させ、効率的に電波を取り込み、高い電波吸収効果を実現させている。
共振タイプ電波吸収体では、誘電材料や磁性材料を含有させていても、厚みが薄いため、熱損失は小さい。そこで電波吸収体の材料定数と厚みを調整し、表面から金属面までの位相変化をλ/4に設計することで、入射電波と反射電波の打ち消し合いを発生させることで電波吸収体となる。
積層タイプ電波吸収体では、積層された各界面での反射と、層内での吸収を総合的に設計することで、比較的薄い厚みで広帯域での電波吸収性能を実現させている。
また、これらの電波吸収体を屋外で使用したいニーズもあり、様々な形状の電波吸収体が開発されている。

図7.屋外で使用される電波吸収体の例
図7.屋外で使用される電波吸収体の例

4. 電波吸収体の導入メリット

近傍界用電波吸収体では、筐体内の共振防止、筐体外への輻射防止、マイクロストリップ線路からの輻射防止や伝送特性調整にも利用される。
遠方界用電波吸収体では、電波暗室に代表されるように、電波吸収体を使用することで、反射を抑えることが可能になるため、どのような周波数の電波が、どのような角度で、どれくらいの強度で放射されているかといった、電波の正確な測定が可能になる。

また、920MHzや2.4GHz等の利用用途が多い周波数では、通信障害が問題になることがあり、電波吸収体を適切な位置に配置することによって障害対策を行うことができる。
他にも、アンテナ周りに取り付けることで、サイドローブを弱め、指向性を改善することも可能。5G/6G関連ではメタサーフェスの研究が盛んに行われているが、面積が大きいと反射時に電波の打ち消し合いが発生し、ダイナミックレンジが低下する。電波吸収体で最適な面積に区切ることで、電波の反射強度を高め、ダイナミックレンジを改善することが期待できる。

昨今身近になったレーダー関連では、ミリ波レーダーにおけるガードレールの偽像対策や、漁船の船舶レーダーに映り込んだマストの偽像対策が可能。
まれな使い方であるが、アンテナ間の伝送試験の距離を短縮するために、透過減衰器として挿入することも行われている。

図8.電波吸収体の活用例
図8.電波吸収体の活用例

5. 電波吸収体の使い方

基本的に、遠方界での反射減衰の使い方、遠方界での透過減衰の使い方および近傍界での使い方に分かれるが、様々な使い方があるため、ここではその一例を記載する。

5-1. 反射減衰として使う方法

  • 電波暗室、電波暗箱の壁面や床面に取り付ける
  • アンテナ周りに取り付ける
  • 測定環境周りに配置する
  • ガードレールやマストに巻き付ける
図9.反射減衰での活用例
図9.反射減衰での活用例

5-2. 透過減衰として使う方法

  • パラボラアンテナ前面に配置する
図10.透過減衰での活用例
図10.透過減衰での活用例

5-3. 近傍界で使う方法

  • ICやケーブル、マイクロストリップ線路等のノイズ放射源に貼り付ける
  • ノイズが集中しやすい筐体内部の壁面に貼り付ける
  • 不要輻射の生じる開口(開孔)部周囲に貼り付ける
図11.近傍界での活用例
図11.近傍界での活用例

(著)東北化工株式会社

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