EMC最新動向2019-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

国際無線障害特別委員会運営委員会委員
雨宮 不二雄

明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

CISPRにおけるEMC標準化の課題は年々複雑化し、各小委員会 (SC) 内あるいはSCをまたがるタスクフォース (TF) 等を設立して、30 MHz未満の放射妨害波測定法、無線電力伝送 (WPT) の許容値と測定法、各製品規格の改定に関する検討等を急ピッチで進めています。昨年のCISPR合同委員会は10月15日~26日に韓国・釜山で開催され、例年と同様に多くの課題が審議されました。ここでは主要課題の審議状況と今後の動向を紹介します。

(1) CISPR総会:①組織・運営関係:40 GHzまでの妨害波許容値と測定法を検討する作業班 (JWG) の設立が提案されたが、SC/AとSC/Hの協議、各国NCが求めた情報の収集を行って次回の総会でJWGの設立を判断することになった。また、ロボットのEMC規格は運営委員会 (SC/S) のAHG3で継続検討することになった。②技術的事項:無線機能を有する機器 (Radio Enabled Products) の妨害波の扱い及び、WPT at a distance (WPTAAD) はISM機器か無線機器かについての議論が行われ、各国から様々な意見が出されて審議が混乱した。そこで、まずRadio Enabled Productsと関連用語を定義し、各国規格、RRでの扱い (事実関係) を明確にすることになった。また、妨害波源の数量増加に伴う許容値と測定法ついては長期課題として継続検討していくことが確認された。

(2) SC/A:①CISPR 16-1-4の放射妨害波測定用補助装置 (アンテナ、試験場等) の改定が審議され、結果を反映した2nd CDを準備することになった。②CISPR 16-2-3の放射妨害波測定法で、距離10mでの磁界測定の際にz方向成分の測定を省略する提案に対し、オーストリアより反論データが提出され、日本が追加測定を実施することになった。③ラージループアンテナシステム (LLAS) の不確かさはFDISが可決されたが、ValidationとConversion係数については、CDVの発行に向け日本より再度コメントとデータを提出することになった。

(3) SC/B:①CISPR 11に、ロボットの妨害波測定法をどのように導入するのかについて審議され、他のSCとの協調を図りながら中間会議で継続審議することになった。②CISPR 11のスコープでWPTAADをどのように扱うかの審議が開始され、900 MHz帯での取扱いやISMバンドの既存サービス (WiFi等) との関係等の検討を進めることになった。

(4) SC/D:①CISPR 12 (非車載無線受信機の保護) の改定関係:FDIS投票が承認された場合は次回会議前に改定版が発行されることが報告された。②CISPR 25 (車載無線受信機の保護) の改定関係:第4版の改定案が審議され、デジタル無線に関する諸元の整理、インバータと充電器の試験における負荷装置の修正等が合意された。③30 MHz未満の低周波放射妨害波の規定 (CISPR 36) についてはFDISが否決されたため、許容値と検波方式の見直し案を準備し、本年1月末までにCDを発行することになった。

(5) SC/F:①家電機器等のエミッション規格 (CISPR 14-1) 関係:無線電力伝送 (IPT) については、TFで許容値の検証を行うことになった。測定周波数の1 GHzから6 GHzへの拡大は、CDV化に向けたレビューを実施することになり、電圧プローブによる測定は次のメンテナンスでの廃止を合意した。②家電機器等のイミュニティ規格 (CISPR 14-2) 関係:有線及び無線ネットワークに関する規定の追加が合意された。③照明器具のエミッション規格 (CISPR 15) 関係:ネットワークで制御される照明器具のエミッションを電流プローブ (CP)、容量性電圧プローブ (CVP)、電圧プローブ (VP) を用いて測定する方法が議論され、VPを用いた方法を削除するDCまたはCDを準備することになった。

(6) SC/H:①住宅・商業・軽工業環境用共通エミッション規格 (IEC 61000-6-3) 第2.1版の改定:FARを用いた床置装置の測定法と許容値についてのDC文書を回付する、1 GHz以上の放射妨害波の測定法及び許容値の改定についてはCISPRの標準化ポリシーに従っているか否かを継続議論する、150 Ω Δ型擬似回路網 (AN) の導入 (代替法) については2nd CDを発行し継続審議する等を合意した。②CISPR TR 16-4-4 (無線保護のための許容値設定モデル) の改定:本文の修正に関するレビュー報告書を、本年4月を目標に発行することになった。

(7) SC/I:①MMEのエミッション規格 (CISPR 32) 第2.0版のメンテナンス:第2.0版の修正に向けた3件のCDVが承認され、1件のFDISとして投票にかけられることになった。WPT機能を有するMMEの許容値と測定法については、許容値について引き続きTFで検討することになった。②MMEのイミュニティ規格 (CISPR 35) 初版のメンテナンス:検討課題毎に設立された多数のTFでの検討状況が報告された。800 MHz以上を用いる無線システムが使用する電波に対するイミュニティに、新しい無線技術で使用する電波の追加を提案するCD文書の準備が合意されたが、その他の課題については本年4月の中間会議で継続審議となった。

今年のCISPR合同委員会は10月15日~26日に上海で開催される予定であり、わが国からの益々の貢献が期待されています。引き続き、そしてこれまで以上にCISPRの標準化活動に対します関係各位のご理解とご指導・ご支援をよろしくお願い申し上げます。