EMC最新動向2019-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

URSI分科会 電磁波の雑音・障害小委員会(URSI-E)委員長
電気通信大学教授
芳原 容英

新年明けましておめでとうございます。

前任の和田修己先生の後を引き継ぎまして、URSI分科会、電磁波の雑音・障害小委員会委員長に就任いたしました芳原です。皆様どうぞよろしくお願いいたします。

本稿では、まずURSIとはどのような国際組織かを簡単に述べ、その中でのEMC分野の位置付けと、関連する研究活動について、特に自然雑音に注目して紹介させていただきます。そして最後に、今後URSIに関連した国内外で開催される会議についての情報をお伝えいたします。

URSIとは国際電波科学連合 (International Union of Radio Science) であり、電波科学の国際的な連絡とその発展の推進を目的とした国際学術団体です。当該分野では、現在42カ国が加盟しており世界最大の規模を有しています。2019年はURSI生誕100周年という記念すべき年です。我が国では、日本学術会議がURSIに加入しており、日本学術会議URSI分科会と、電子情報通信学会URSI日本国内委員会が一体となり、電波科学研究の発展のための重要な活動を実施しています。国際組織であるURSIには、電波科学の広い分野をカバーする10のコミッション (分科会) が設置され、そのうちコミッションE (電磁波の雑音・障害(Electromagnetic Environment and Interference)) がEMC分野と最も関連が深く、URSIの国内組織であるURSI分科会及び電子情報通信学会URSI日本国内委員会にも対応する小委員会Eが設置されており、国内メンバーによる活発な研究活動が行われています。

電磁波の雑音・障害小委員会では、人工雑音分野と自然雑音分野それぞれにおいて活発な研究活動が展開されています。本稿では、芳原が主に従事している自然雑音に関する研究をご紹介します。

昨年は、1年の世相を表す漢字一文字に 「災」 が選ばれるなど、西日本豪雨や北海道地震などの自然災害が多発し、多くの人々が被災した大変な年でした。本稿では自然災害に先行する自然雑音の観測から、将来的に自然災害の軽減を目指す研究例として、洪水を引き起こすような集中豪雨と雷放電との関連性をとりあげます。集中豪雨には、10分以内という極めて短時間に雷雲が発達し激しい雨をもたらすものが多数あり、その監視や予測には、現行の気象レーダ (こちらも電波科学の範疇ですが) の時間空間分解能では不十分です。そこで、激しい雨に関連した雷放電に着目しています。雷放電には雷雲から地面への放電である対地放電 (CG) と、雷雲内で完結する雲放電 (IC) がありますが、特にICの頻度が激しい雨に先行して著しく上昇する例が多数観測されています。これは、雷雲内の激しい上昇気流の存在を示していると思われます。そこで、CGとICを合わせたトータル雷 (TL) の時間空間変化を観測することで、将来激しい雨がいつ、どこで降るのかを求め、短時間予報に役立てようとしています。雷の観測には、雷から発生する強い電磁パルス (自然雑音) を国内13点に設置された電界アンテナで連続同時受信し、その受信時間差から雷発生場所を導出し、また波形の特徴から雷の電気的特性を推定しています。各観測点からのデータは、インターネット (モバイルや有線) を介してデータセンターに即時送られ、リアルタイムでの国内の雷放電の時空間特性が導出されます。トータル雷の増加は、竜巻やダウンバースト (激しく吹き下ろす風) に先行しても観測されており、これら極端気象の予測や監視に有用であると期待されています。

さて、URSIが主催する旗艦国際会議にはURSI総会、AP-RASC (アジア・太平洋電波科学会議)、AT-RASC (大西洋電波科学会議) がそれぞれ3年毎に開催されます。2017年に開催されたカナダ・モントリオールでのURSI総会にて、2023年のURSI総会が日本 (札幌) にて開催されることが決まりました。また、本年のAP-RASCはインド、ニューデリーにて開催予定であり、日本からも多くの論文が投稿されています。さらに、本年9月には第3回URSI-JRSM2019 (日本電波科学会議) が電気通信大学にて開催予定であり、国内の電波科学に従事する研究者が一堂に会する機会が提供される予定です。今後ますます、EMCコミュニティーとともにURSI活動の活性化を目指して、積極的に活動を支援していく所存です。最後に、2019年が皆様にとって素晴らしい年になりますよう心から祈念申し上げます。