EMC最新動向2019-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

独立行政法人 自動車技術総合機構 交通安全環境研究所
石井 素

平成31年の新年を迎え、謹んでお慶び申し上げます。

1.鉄道の海外展開における認証の重要性

平成30年6月に政府によりとりまとめられた「インフラシステム輸出戦略」によると、ここしばらくの間政府が打ち出してきた政策等もあり、インフラ受注額は2016年で約21兆円と一定の成果をあげてきているようです。また、「熾烈な国際競争に勝ち抜き、世界のインフラ需要が拡大するペースにあわせて自らのビジネスを拡大していくことは容易ではないが」としつつも、我が国の企業のインフラシステム受注額について (事業投資による収入額等も含み) 2020年に約30兆円を目指すことを掲げています。さらに、「特に鉄道分野において、海外向け車両の仕様の検証、国内認証機関の充実、我が国技術の国際標準化、内外メーカーとの連携等を推進」とされており、引き続き、鉄道は政府の戦略の上でも重要な産業として位置づけられています。

鉄道の海外展開は、国家プロジェクトでは、リニア新幹線や新幹線の輸出について引き続き推進されています。これに加えて、民間企業においては鉄道車両、信号、制御機器等を海外に輸出しており、その動きは加速化されています。その際には、製品認証 (国際規格に適合していることを認証すること) が必須となっており、交通安全環境研究所は、平成24年以降、IEC (国際電気標準会議) が制定したIEC 62425 (信号の安全関連) 、IEC 62279 (ソフトウェアの安全) 及びIEC 62280 (通信の安全関連) 、さらに平成30年にはIEC 62278 (RAMS規格) を対象として、NITE (独立行政法人 製品評価技術基盤機構) から認定を受けた鉄道の認証機関として、システムも含めた製品の認証を行っています。平成30年10月末段階で、26案件の認証実績があり、今後も認証を通じて、民間企業のシステムの輸出等を支援していく予定です。

海外で認証が要求される規格としては、上述のIEC 62425、IEC 62279、IEC 62280等が多かったのですが、近年ではIEC 62278への要求が基本となりつつあります。これは、システムの安全性 (Safety) のみならず、稼働率 (Availability) 、保守性 (Maintainability) 、信頼性 (Reliability) も考慮したバランス良い設計のためのマネジメント規格であり、日本の鉄道メーカーは、このRAMS規格への適合に労力を割いています。当研究所では、平成28年3月にIEC 62278を適用規格とする認証書を発行し、その実績に基づき、前述のとおり平成30年5月には認定規格の拡充をすることができました。一方、EMCに関する規格は、IEC 62236 (鉄道分野の電磁両立性) やIEC/TS 62597 (磁界の人体ばく露に関する測定手続き) があります。これらは、IEC 62278から参照されることもあり得るもので、重要な規格として位置づけられており、EMC規格の動向についても注視していく予定です。

2.Inno Transの盛況

こうした状況の中で、平成30年9月18日~21日に、ドイツにおいてInno Trans2018が開催されました。認証を通じた輸出の支援を効果的に行うためには、展示会等への参画を通じた国内外での知名度の向上も重要と考えており、当研究所もパンフレットの配布に取り組みました。隔年で開催されるこの技術展は非常に盛況で、今年は60ヶ国3062社の出展があり、16万人を超える来場者を記録しました。インフラから車両、旅客サービスまで幅広い展示がされました。鉄道の要素技術では、バッテリーやコンバータなど着実に進歩しており、今後も鉄道におけるEMC対策は継続的に取り組む課題であると考えられます。

3.鉄道とEMC

鉄道では、変電設備、車両、軌道及び信号システムなど、非常に多様な電気・電子機器が使用されており、電磁波が放射されやすい条件下にあります。さらに、今後それらの機器の集積度が増し、無線列車制御システムの導入や蓄電池搭載車両の運行等、電磁ノイズの影響を受けやすいシステムや電磁ノイズを放射しやすいシステムが普及すると、改めてEMCに対する課題を整理する必要性は必然的に高くなっていくのではないでしょうか。このようなことから、当研究所では、鉄道からのEMCに関して、様々な鉄道路線での実態の把握、評価方法に関する研究テーマを継続的に行っています。これらの研究成果をもとに、EMCに対する日本の測定・対策技術を当研究所が認証し、海外に展開できる可能性があるならば、その支援も積極的に行っていきたいと考えています。