EMC最新動向2019-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

独立行政法人 自動車技術総合機構 交通安全環境研究所 自動車安全研究部
伊藤 紳一郎

新年あけましておめでとうございます。

以前に比べて減少したとはいえ、2017年の交通事故死亡者数は3700人近くに上っており依然として多い状況です。この交通事故を未然に防止し、交通事故死傷者数を大幅に削減するために自動運転技術に大きな期待が寄せられています。これらの技術は電子制御技術の上に成り立っており、それらの安全性能を確保するために、自動車のEMCは増々重要なテーマとなっており、避けて通ることができないものとなっています。

このような自動車のEMCは、各国法規によって対応を義務付けられていることが多く、そのもとになっているものの1つが、自動車のEMCに関する国際基準である国連規則第10号 (UN R10) です。我が国においても、道路運送車両の技術的要件とR10の要件は同一性が確保されています。

このようにR10は自動車のEMCにとって重要な国際基準ですが、このR10を取り巻く環境は昨年の後半から本年にかけて大きく変化しつつあります。

R10は2014年10月に05シリーズが発効してから4年が経過しているところですが、飛躍的に進展した自動車技術に対応できずに試験条件等が実態とかい離して試験機関の独自判断に委ねられるものが出てきたり、R10で引用している規格の改正に対応する等R10改正の要望が高まってきました。

05シリーズ発効直後は主として誤記訂正のための改正作業として開始されましたが、各国・地域や関連業界からの改正要望が次々と出され、技術的な内容にも踏み込んだ改正となったことから、06シリーズとして改正することとなりました。

この06シリーズの改正案のうち主な技術的な案件は次のとおりです。

・実車狭帯域エミッションの限度値の見直し

実車狭帯域エミッションの限度値をCISPR12の狭帯域エミッションの限度値と整合させる。

・AN (擬似回路網) の見直し

試験で使用するANにCISPR12第7版の審議内容を先行して取り入れる。

・DC充電時の充電電流要件の緩和

エミッション試験におけるDC充電時の充電電流の要件が条件付きで緩和される。

・受信アンテナ位置の変更

車両エミッション試験における受信アンテナ位置をエンジン中心から前後方向中心に変更する。

・受信アンテナの3dB帯域幅の考慮

車両エミッション試験において、受信アンテナの3dB帯域幅で車両全長をカバーできない場合、複数のアンテナ位置で測定を実施することが追加される。特に3m法でエミッション試験を実施する場合には注意が必要である。

・イミュニティ試験時の車両条件等の見直し

イミュニティ試験における対象装置の追加及び誤作動判定条件が見直される。

スケジュール的には、昨年10月に開催されたGRE (灯火器専門家会議) においてR10-06シリーズの改正案が合意されました。改正案は、本年3月に開催されるWP29 (自動車基準調和世界フォーラム) に上程されて審議されます。WP29では大きな修正もなく可決されるものとみられ、本年の後半には正式発効される方向で手続きが進む予定です。

これと並行して、GREの下部組織の作業部会であるTF-EMC (Task Force on Electromagnetic Compatibility) においては、既に積み残しとなった案件も含めて次期改正である07シリーズ改正に向けた議論が開始される予定です。

このように今年のR10を取り巻く環境は大きく変化することが予想されます。

一方、R10で引用しているCISPR、ISO、IEC等の規格についても改正動向に注目する必要があります。

今後とも皆様のご理解とご協力をよろしくお願い致しますとともに、末筆ながら読者の皆様の益々のご活躍とご健勝を祈念いたします。