EMC最新動向2019-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
黒川 悟

新年のご挨拶を申し上げます。

国立研究開発法人産業技術総合研究所計量標準総合センターでは、日本国の各種標準を確立し供給しています。電磁界標準研究グループでは、国際的な不要電磁波規制[1]に関連するアンテナ標準、電界標準の特定標準器による校正であるjcss (calibration services for Japan Calibration Service System) [2]、磁界標準、無線通信に用いられるアンテナ標準、各種レーダー用の散乱体標準 (RCS: Radar cross section) を依頼試験、受託研究等により供給を行っています。ここでは、当研究グループが現在供給している各種標準の概要と今後の供給、産業支援の取り組みを紹介し、最後に、研究成果の企業化の取り組みも紹介いたします。

1 国際的な不要電磁波規制に関連する標準供給

EMC規制に関する標準供給として、電磁耐性試験に用いられる電界標準、各種アンテナ標準を確立し、電界センサのjcss校正、放射EMI測定に用いるループアンテナ、ダイポールアンテナ、各種広帯域アンテナのアンテナ係数のjcss校正を実施しています。

放射EMI規制に関しては、昨年韓国釜山で開催されたCISPRの放射EMI測定用アンテナの自由空間アンテナ係数の校正法について議論がされたと聞いています。当研究グループでは、広帯域アンテナの自由空間アンテナ係数をjcssにより供給しており、本年からは、VCCI、全国政令市都道府県等の研究所等が設置するEMC試験所のアンテナ校正の取り組みを積極的に支援することとしています。国内外で、我々が開発したアンテナ係数校正方法[3,4]が参照され、標準化が進むことを期待しています。

電磁耐性試験に関しては、本年中に6GHzまでの電界センサの校正が可能となります。電界センサの特性としては、3軸光電界センサを用いた場合の電界均一性が要求されています。当研究グループでは、誘電体光変調器で構成された3軸光電界センサが、理想的な3次元での電界を受信可能であることを示した技術文書を作成しており、本年中にIEC TC103の技術文書 (Technical report) [7]としての発行を目指しております。

2 無線通信用のアンテナ校正と新しい測定装置の提案

第3世代 (3G)、第4世代 (4G) の携帯無線通信に用いられる基地局アンテナの利得測定、3次元放射パターン測定をアンテナ近傍界測定法[8]により実施しており、4Gまでの携帯電話通信用基地局アンテナについては、産総研でのアンテナ校正が可能となっており、アンテナ標準へのトレーサビリティが確立されてきていると考えています。

さらに、2020年度から商用利用が開始予定の第5世代携帯無線通信 (5G) に用いられる600 MHz~6 GHz帯、24~40 GHz帯のアンテナ利得、3次元放射パターン測定等も実施可能となっています。本年4月までには、第6世代携帯無線通信で利用が検討されている300GHz帯のアンテナ標準の整備が完了予定であり、産業界の次世代製品開発を継続的に支援していくこととしています。

3  光ファイバ無線技術を用いた新しいアンテナ測定システムの供給

5Gで用いられる周波数帯は、4Gに比べて高い周波数の利用が検討されており、これまで以上に高性能な同軸ケーブル、増幅器、測定装置等が必要となります。当研究グループでは、5Gの周波数帯でも利用可能な、光ファイバ無線技術を用いたアンテナ測定システムを開発しており、その一部分が、IEC TC103技術文書IEC TR63099-1[9]として発行済みであり、IECのWebページから入手可能となっています。

現在市販されているアンテナ近傍界測定装置は、ほとんどが海外製品であり、導入と導入後のメインテナンスにも多額の費用が必要なことが多いと考えています。このため当研究グループでは、5Gに対応する製品開発を支援するため、小型電波暗室、実験室、企業の生産ラインなどへの導入が可能な、光ファイバ無線システムを搭載した産業用ロボットタイプのアンテナ近傍界測定装置を開発しており、本年中には国内外の企業が購入し、測定に利用できるよう販売を開始する予定です。

[1] CISPR 16: CISPR 16 is a series of 16 publications specifying equipment and methods for measuring disturbances and immunity to them at frequencies above 9 kHz.

[2] jcss特定標準器による校正、研究開発法人産業技術総合研究所計量標準総合センター

[3] S. Kurokawa, M. Hirose, K. Komiyama, `` Measurement and uncertainty analysis of free-Space antenna factors of a Log-Periodic antenna using time-domain techniques,” IEEE Trans. Instrum. Meas., vol. 58, no. 4, pp.1120-1125, 2009.

[4] 黒川 悟, 廣瀬 雅信,“パルス圧縮と時間領域処理を用いた不要反射波の除去による広帯域アンテナの遠方界アンテナ係数推定法,” 電子情報通信学会論文誌B, Vol.J101-B No.9 pp.660-674, 2018.

[5] IEC TC 103 Transmitting equipment for radiocommunication

[6] IEEE Std. 1720-2012: Recommended Practice for Near-Field Antenna Measurements

[7] IEC TR 63099-1:2017 Edition 1.0 (2017-08-09) Transmitting equipment for radiocommunication - Radio-over fibre technologies for electromagnetic-field measurement - Part 1: Radio-over-fibre technologies for antenna measurement