EMC最新動向2019-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

公益財団法人 鉄道総合技術研究所 会長
正田 英介

情報ネットワークの応用の進展によって自動車の自動運転、人間の作業を代行するロボット、生活の魅力に満ちたスマートシティなどの話題がわれわれの生活や社会をより便利で快適なものに進歩させてゆくものとして、毎日のようにマスコミで賑やかに報道されている。技術的にそれらを成立させているのは、I.o.T.の様に個別の機器を広く相互に接続するネットワークとそれらを高速で操作する制御システムである。勿論そのための機能を備えた高機能の機器や通信システムの技術開発が前提ではあるが、一般に”connected” (日本語で言えば「つながる」) がそのキーワードになっているように、スマートシステムと総称されるこのような応用の実現の可能性は、個別の機器とネットワークの接続による円滑な情報とエネルギーの授受にかかっており、それが十分に機能することが必須の条件である。それには当然EMCも入ってくる。

このようなスマートシステムではセンサー、制御器、応用装置など多数の構成要素やステークホルダーの間での情報やエネルギーの双方向的な伝送が行われ、自動車の自律運転システムやスマートグリッドを考えれば明らかなように新しい空間的な広がりを持ったインフラを伴っている。スマートさの特長は構成要素が有線あるいは無線のネットワークでこの空間全体につながって動作することから得られており、信号やエネルギーの流れも時変的かつ非定常で、ゲームの要因すら含まれている。スマートモビリティではドローンの利用や空飛ぶタクシーまで想定されているが、そこではシステム自体が空間に広がり、3次元的な環境が入ってくる。機能集中型の都市ビルでは3次元の移動を容易にするエレベータの必要性が指摘されており、モデルシステムの実用化も進められている。これも新しい居住環境を構成する。

スマートシステムでは無数の接続点の間の信号やエネルギーが正確に伝送されるためにそれ自身の電磁環境が重要なことは言うまでもないが、新しいインフラの導入によってそれが使用される地域の生活空間の電磁環境も変化する。便宜性・環境性・コストなどの社会的な要求をスマートさで実現すれば、伝送システムの広がり、双方向の伝送量、周波数帯域などは大きくなり、電磁環境は厳しさを増す。スマートグリッドを想像してみれば明らかなように、エネルギーや信号の双方向的な流れによって、ネットワークの電磁環境は現状よりは悪化の方向になるだろうし、補償装置ですべてのステークホルダーに対して現状のレベルに戻すというのはコスト的に難しいであろうから、構成機器のイミュニティレベルはより高いものが必要になろう。

上に述べた様に、新たに発生するEMC問題は電磁環境も関係する機器も複雑で多様であり、なかなか解決が難しいと予想される。統合的な社会システムとして導入されるにはまだ途が遠いと思われるが、技術的な関心の高さから限定的な形での多くの試用がされたり、計画が示されたりしている。これらは一種の既得権となるので、いろいろなスマートシステムのモデルがさみだれ的に導入されるとそのEMCの標準化のプロセスは非常に難しくなるだろう。過去の例の様に電磁障害が発生してからの後追いでは標準化によるEMCの解決は難しいし、新しいシステムの普及の妨げにもなろう。IEEEは大きな組織で一つの規準としての 「自律システムとI.o.T.の倫理設計法」 について実用化に先立って検討を進めているが、スマートシステム全般に係るEMCについてもこの様なアプローチで関係者の関心と理解を予め喚起しておかないと難しい状況に陥るのではないかと危惧している。