EMC最新動向2019-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

日本信頼性学会(REAJ) 
元第一工業大学教授
村岡 哲也

明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

1971年に米国防総省は 「指針5000.1」 の中で、兵器の調達を従来の 「開発・製造における超過利潤コストとする方式」 に替えて、新規に 「開発・運用・保全・廃棄までの最小支出総額をコストとする方式」 を示しました。1971年に示された兵器調達方式を業務用三相誘導モーター (以下モーターと略記) に適用して、それが持つ機能を低下させることなく、有効に使い切る新しい保全方式を紹介します1)。

一般にモーターは、高温・多湿で,粉塵やオイルミストなどが充満する劣悪な環境内に設置される場合が多い。こうした劣悪な環境での使用が致命的な故障を引き起こし、モーターの耐用寿命を極端に縮める原因となっています。

モーターのステーターコイル径が細くなれば、抵抗率が増加し、出力が低下する。抵抗率の増加分は放熱されるので、ステーターフレームに手で触れば温度上昇からコイルの劣化状況を知ることができる。また、モーターの回転エネルギーを作業部に伝達する軸受中の玉が摩耗や片減りしたり、グリースが消耗したりすると異常音が発生します。

上記の調査対象であるモーターと軸受にIoT (Internet of Things:物のインターネット) を適用した点検項目を以下に示します。

(1) ステーターコイルの細りからくる発熱の温度上昇を、ステーターフレームに貼り付けたサーミスタ温度計で自動的に測定する。

(2) モーターの軸ブレと軸受の玉の摩耗や片減りなどによる異常音は、マイクロフォンで測定する。

(3) グリース不足や過剰の補填注入は、モーターの急激な発熱から臭気や火災が発生するので、発熱と臭気はサーミスタ温度計と臭いセンサで自動的に測定し、火災はCCDカメラでモニターする。

(4) ステーターフレームの塗装剥離は、CCDカメラでモニターする。

モーターの保全にIoTシステムを導入することで、現場の技術者による日常点検業務が完全に自動化されます。IoTシステムの構成を図1に示します。

こうして図1から得られたデータにAIを適用して統計処理し、処理結果はサーバーにストアされている良好なデータと比較し、得られた結果を評価する。評価結果はモーターの機能を低下させることなく、有効に使い切る新しい保全方式に基づいて、劣化した箇所のメンテナンスを実施する1)。

新しい保全方式の調査対象は、K市S清掃センターの振動ふるい機に装着されたモーターです。まず、調達費用Mのモーターを2台準備し、1台目を350日間連続稼働させ、15日間で2台目と交換する。1台目は定期検査と保全を終えた後、次年度の予備として待機させる。そのサイクルを1年毎に繰り返しました。そうして得られた基本データをサーバーにストアしておきます。

調査対象のモーターの耐用寿命をYm、1年間の検査と保全費用をZとすると、単年度費用Xは、

X=(M/Ym)+Z ………………………………(1)

で与えられます。ここで、式 (1) が調達費用Mより少額になる、すなわちM>Xとなれば保全効果があると評価します。参考までに、S清掃センターのモーターの保全効果は4年後から顕著に見られ、その後の研究成果から2年間毎のメンテナンスでもよいことが分かりました。

今後益々産業のグローバル化が進むにしたがい、国際標準化を見据えた取り組みが益々重要になっており、官民を上げた取組が求められております。今後とも皆様のご理解とご協力をよろしくお願いいたしますとともに、皆様のご健勝を祈念いたしまして、新年のご挨拶とさせていただきます。