EMC最新動向2019-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

静電気学会電子デバイス研究委員会委員長
沼津工業高等専門学校
大津 孝佳

新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

電気自動車の自動化、ロボットのAI化、医療用ロボット、スマートグリッドなどの開発に伴い電子機器の信頼性への要求は高まっています。一方、電子デバイスの静電気耐力のトレンドによれば、高周波化・省電力化に伴い低下し、年率70%の傾きで低下しています。これまでの静電気対策技術は、電子デバイスの保護回路設計に委ねられたコンポーネントレベルでの対策に主眼が置かれてきました。しかし、今後の製品の高性能化、ウェアラブル機器の普及などに伴い、新たに、システムレベルでの静電気対策が望まれるようになってきています。近年のシステムレベルでの静電気対策の事例としては、ハードディスクがあります。ハードディスクに用いられている磁気ヘッドの静電気耐力は5V以下ですが、装置としては10kVに耐えられます。これを実現するために、5V以下の電子デバイスの製造法、組立法などの生産技術、静電気対電策材料の開発、基板等の回路技術などに支えられています。このようなシステムレベルでの電子機器の破壊や誤動作防止のために、計測技術や材料技術などの学術的な観点からの取り組みとして、静電気学会電子デバイス研究委員会があります。

静電気学会は、静電気に関する研究者および技術者が一致協力し,既存の学問分野を越えた学際的な立場、また、国際的な視野から、静電気の学問と技術の進展に寄与することを目的に1976年に設立されました。1982年からは、特定の課題を対象に調査研究をする委員から構成される研究委員会を設け、毎年、その成果を学会誌、オープンシステムの研究会などにおいて発表しています。現在、研究委員会は、バイオプラズマ研究委員会、静電気リスクアセスメント研究委員会、静電気放電基礎研究委員会、電子デバイス研究委員会、細胞・分子操作研究委員会、放電プラズマによる水処理研究委員会 、機能変換高分子材料研究委員会の7つが活動しています。

電子デバイス研究委員会の目的・内容は、次の通りです。『半導体デバイス、ディスプレイデバイス、ハードディスクなどの電子デバイス及びこれらを組み込んだ電子機器は半導体素子の高集積化、高速化、低電圧化に伴って益々静電吸引 (ESA)、静電気放電 (ESD)、静電気放電に基づく電磁障害 (EMI) に脆弱となっている。これらの電子デバイスの製造、組み立て、実装工程における製品の歩留まり、信頼性等において、ESA、ESD、EMI等の問題が大きな課題となっている。このような課題の解決に当たっては、ESA、ESD、EMI等を科学的に把握し、工学的に対策技術を検討する必要がある。更に、電子デバイスの高性能化に伴い、コンポーネントレベルやシステムレベルでの静電気対策技術の検討が望まれる。そこで、産学連携し、共通の認識に立ち、ESA、ESD、EMI等の問題やコンポーネントやシステムレベルでの静電気対策技術について取り組み、討論する場として本研究委員会を設置する。』

静電気放電は高エネルギーで、GHz帯の高周波の現象です。そこで、その現象の解析と対策には、計測技術や材料技術など幅広い分野の方々とのネットワークが重要となり、本誌 『月刊EMC』 に期待するところです。電子デバイス研究委員会では、静電気対策技術の動向の情報共有化を図り、現状の把握を行うとともに、今後のシステムレベルでの静電気対策を推進してゆく所存です。是非、関係者の皆さまのご支援・ご協力を宜しくお願いいたします。