EMC最新動向2019-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

ITU-T SG5 副議長
Vice-chairman of SG5, ITU-T
日本電信電話株式会社(NTT) 担当部長
高谷 和宏

新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。

国際電気通信連合・電気通信標準化部門 (ITU-T) のStudy Group 5 (SG5) は、情報通信技術 (ICT) の環境的側面における電磁界現象と気候変動に関する課題の研究を通じて、ITU-T勧告 (標準規格) の作成を行っています。SG5は、2つのWorking Party (WP) で構成され、EMCに関連の深いWP1では、通信ネットワーク・機器の電磁干渉と雷保護、及び通信設備・機器によって生成される電磁界 (EMF:Electromagnetic Field) による人体ばく露の評価について検討しています。

2020年の第5世代移動通信網 (5G) のサービス開始に向け、様々な技術革新と装置開発が進んでいますが、5Gの特徴として、大容量・超高速通信を実現するためのミリ波帯の電波利用、IoT (Internet of Things) デバイスを含む大量の無線端末の収容、及び超低遅延性の実現が求められています。さらに、干渉波を非意図的または意図的に発するISM機器などの産業機器と無線システムがより稠密に配置されるIoT環境が進展すると、EMCの側面における新たな課題が生じることも容易に想像されます。そのため、SG5は、ICTを取り巻く環境及びEMCの分野をリードする立場として、5Gに関連する“EMC”、“EMF”、“電力効率”、及び“過電圧”の課題を解決するガイドとなる文書を作成しています。

今会期 (2017‐2020年) は、2018年9月までに計3回のSG5会合とWP1、2会合が各々1回開催され、ガイドとなる文書の作成がほぼ完了しています。また、2018年9月の前回会合では、人工知能 (AI) などの革新的技術を活用した環境マネージメントの分野におけるSG5の活動を強化する目的のフォーカスグループを設立することが提案され、次回のSG会合において最終決定することになりました。WP1傘下の5つの研究課題 (雷防護素子、過電圧、EMFによる人体ばく露、EMC、電磁的セキュリティ) においても、すでに15件の新規ITU-T勧告の作成、のべ20件の既存勧告の改訂、9件の補完文書 (サプリメント) の作成が完了しています。以下では、本誌に関連の深い3つの研究課題についての検討状況をご紹介します。

1.EMFによる人体ばく露

EMFへの人体ばく露に関する課題については、昨年の会合でK.Suppl.13 「異なった使用状況における無線電磁界のばく露レベル」、K.Suppl.14 「ICNIRPやIEEEガイドラインより厳しい電磁界ばく露制限値を適用した場合の4G、5Gの携帯ネットワーク導入に対する影響」、K.Supp-16 「5G無線ネットワークにおける電磁界ばく露適合性評価」 の3件の補足文書が制定されました。また、電磁界ばく露の評価における、5件の新規ITU-T勧告の作成が作業計画に追加され、これらの検討を継続する予定となっています。

2.通信設備のEMC

この課題では、通信施設内で使用する電気・電子装置のEMC規格を検討しています。近年、通信機械室等の自動化・無人化を目的としたIoT技術の適用などによって、通信施設内における無線ネットワークの利用が盛んになっています。また、多くのICT装置は、無線通信機能を備えていることが当たり前となってきました。そのため、完全に分離することのできない無線通信機能を具備するICT装置のEMC試験方法の規定が重要となっています。この課題解決の一つとして、ITU-T勧告K.136 「無線通信装置のEMC規定」、及びK.137 「有線通信装置のEMC規定と試験方法」 の2件の製品群規格を制定し、これまで不明確であった無線機能部分とその他の部分の試験方法、及びその制限値をクリアにしました。今後は、IoTの主力となる各種センサのEMC規定や、アレイアンテナを用いる際の受動相互変調に対する規定など、移動体無線に係るICT装置のEMCや干渉に関係する検討が予定されています。

3.大気放射線に対する試験・対策

中性子線やα線によるICT装置の誤動作 (ソフトエラー) の問題に適切に対処するために、これらに起因する問題への対策設計方法、試験方法の標準化を進めています。昨年は、ITU-T勧告K.138「粒子線照射試験に基づく品質評価方法と対策方法の適用ガイドライン」、及びK.139 「通信システムへの粒子線の影響に対する信頼性規定」 が制定されました。これによって、ソフトエラー対策に係る①規定の概要、②設計方法、③中性子線照射試験方法、④試験結果の評価方法、⑤信頼性規定のシリーズ勧告5件が揃ったことになります。今後は、これらのITU-T勧告をもとに、順次国内のTTC規格を制定して普及を図ることが計画されており、さらにはIEC等において、通信以外の分野への展開も期待されています。また、電磁波セキュリティに関する既存勧告に対して、IEC SC77Cにおける標準化動向に合わせた改訂作業が計画されています。

さて、2019年の年頭は、2017年から2020年の会期における折り返し地点となります。2021年以降の次会期や2030年以降のSDGs (Sustainable Development Goals) を意識すると、AIやそのほかの革新的技術を環境やEMCの分野にも導入していくことが、ITU-Tにおける標準化活動の新たな展開であると期待しています。2019年もITU-Tにおける我が国の標準化活動に、ご支援を賜りますようお願い致します。