EMC最新動向2019-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

北陸先端科学技術大学院大学
丹 康雄

新年明けましておめでとうございます。

年頭挨拶の機会に、EMCに関して最近気になっていることを述べさせて頂く。私はホームオートメーション、ホームネットワークを皮切りに現在IoTと呼ばれるようになった様々な分野での研究開発や標準化活動を行ってきた。家庭分野では震災直後にはエネルギーに重点を置いたスマートハウスという用語が使われていたが、近年はハウスという建物そのものを指すことばではなく、人々のくらしをあらわすという意味でスマートホームという言い方が主流になっている。また、更に 「家」 での生活に限らず朝起きてから寝るまですべての生活、つまり通勤中や外出中の行動も含めた生活をあらわすという意味でスマートライフということばが使われるようになりつつある。

実はこのことばの変遷には重要な変化があらわれている。ハウスからホームという移り変わりは、いわゆる 「モノ」 から 「コト」 をあらわしている。住宅、住宅設備、家電、といったものづくりにおいてネットワークへの接続を実現して連携を可能にするという段階から、様々なサービスの開発に重点を移し、そのサービス実現を容易にするためのクラウド内の仕組みづくり、機器側のインタフェース標準化が主たる課題になってきたことを示しているわけである。

一方、ホームからライフへという移り変わりには、システム構造の変化が大きく反映している。従来は機器類が家という物理的に固定した空間に設置されており、それら空間的に接近した機器群をひとまとめにするゲートウエイ/コントローラデバイスがサービスを実現するクラウド側への橋渡しの役割を果たしていたのが、機器およびクラウド双方のコスト構造が劇的に変化したことによって、機器が直接広域ネットワークを経由してその機器を製造したメーカーのクラウドに直結し、そのメーカークラウドで提供される機能を連携させることでサービスが実現されるように変化してきた。こうなると家という物理的な空間には縛られず、生活者が常に持ち歩いていたり出先で使ったものも含めて、ある人の生活、という観点で考えられるようになってきたことを示している。

このような変化はEMCにも新たな課題を突きつける。ホームオートメーションシステムでは有線の通信媒体による固定的なネットワークでシステムが構成されるのが基本であった。また、インターネットのような広域ネットワークに接続されるのはほんの一部の機器だけであり、家の中では機器間接続のための別の通信媒体が使われる。これらの機器接続ケーブルで使われる信号は周波数も低く、また、必要なときにしか信号もながれていないようなものがほとんどである。それに対して、現在ひろまりつつある機器群は、直接インターネットに出ていくためパソコン同様の通信インタフェースを有し、また、設置の容易性や使用時の利便性のために無線を用いるものが極めて多く、常に何らかの電磁波を振りまくものが激増した。

こうした一つの分野の中での変化に加え、IoTの対象分野が大幅に増加しつつある。農業や水産業といった産業でもIoTの有効性が認識されつつあり、今までは50Hz/60Hzよりも高い周波数が存在していなかった場所でも、驚くほど電波が飛んでいるようになりつつあるとともに、動作しているマイコンから出るノイズも以前とは比較にならないほどになってきた。今後こうした傾向はますます強まることを考えれば、IoTにおけるEMCの重要性はますます高まっていくことであろう。