EMC最新動向2019-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

電気学会 IoT 時代のシステムとEMC 調査専門委員会 委員長
愛媛大学
都築 伸二

明けましておめでとうございます。

電気学会「 IoT時代のシステムとEMC 調査専門委員会」 を代表致しまして、謹んで新年のお慶びを申し上げます。本委員会は、来るIoT 時代の各種システムのありようをEMC の観点で調査することを目的として、2018年4 月に設置されました。調査期間は3 年であり、本格的な調査はこれからですので、設置意図と活動予定を以下に紹介致します。

IoT( Internet of Things) は言葉のとおり、各種センサー、電化製品、自動車、産業用機械、医療機器など様々なモノをネットワーク接続して大量のデータを集め、グラウド上でビックデータ・AI 処理された結果をフィードバックする、つまりサイバー空間と現実の世界とを融合させるための技術と言えます。2020 年代には本格的なIoT 社会が到来し、500億台を超える機器がネットワークに接続され、現在の1000 倍を超える通信量が予測されています。

人々の暮らしに大きな変革をもたらすイノベーションとなることは疑う余地のないところですが、一方で多くの課題も指摘され始めています。多様なIoT サービスを創出するためには、膨大な数のIoT機器を迅速かつ効率的に接続する技術や、異なる通信規格のIoT 機器や複数のサービスをまとめて効率的かつ安全にネットワークに接続する技術等の共通基盤技術、いわゆるプラットフォームが必要です。さらに社会実装するためには、国際標準規格の策定は欠かせません。本委員会では、各国のIoT 推進体制や政策に関する最新動向、実際のプラットフォーム事例を現在調査しているところです。

スマートグリッドでは、多様な電源と蓄電池が分散配置され、潮流の向きが時々刻々変化します。電子機器への電力供給方法も多様化し、環境発電やワイヤレス給電など、よりユーザビリティの高い電力供給技術の進展も目が離せません。従って、来るIoT 時代ではEMC 技術を取り巻く状況も大きく変わると考えています。想定を超える高密度に配置された有線/ 無線IoT 機器が、各種電力機器と隣接するようになれば、電磁環境の保全はこれまでにも増して重要かつ困難な課題となります。社会の安全・安心を維持し続けるためには、EMC 技術の発展も欠かせません。IoT に直接関連するEMC 規格の標準化活動は今のところ行われていないようですが、こうした状況を受けて始まる可能性が高いため注視しておく必要があります。

IoT 用通信技術、例えば第 5 世代( 5G) 携帯電話、LPWA( Low Power Wide Area) , PLC( Power LineCommunication) などや、高性能EMC 対策部品・高機能EMC 対策技術の動向も調査する予定です。ノイズに対する耐性が強い組込みソフトウェアの実装技術は、前回の委員会でも議論されました。

IoT を利活用する新しいEMC 技術分野の創生も期待しております。例えば、IoT によって稠密な電磁環境のモニタリングが可能となります。また従来は、電磁妨害を与える機器と受ける機器とが通信できなかったがために、両立性を担保することが困難でした。しかし、IoT によって相互に通信できるようになりますし、通信できないとしてもAI 等を駆使した分析や予測によって、システム全体で協調しながら電磁環境を保全できるようになる可能があります。従来のEMC 技術では、機器単体、かつ出荷時の性能を担保するに留まっていましたが、IoT の利活用によって自身の経年劣化や故障に伴う妨害発生を抑えるための技術に進化する可能性もあります。本委員会の母体となった「 スマートグリッド・コミュニティのEMC 問題調査専門委員会」 では、この新しい考え方を「 Smart EMC」 と命名しました。本委員会でも引き続き、こうした新しいEMC 技術についても議論を深めたいと考えています。

以上、今後の委員会活動へのご指導とご支援をお願い申し上げ、新年のご挨拶とさせていただきます。本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。