EMC最新動向2019-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

一般財団法人 電気安全環境研究所(JET)
山下 洋治

みなさま、新年明けましておめでとうございます。

EMCと言うと、通信障害・受信障害を起こしにくくする、製品が誤動作せずに意図したとおりに動作する、などを目的とした試験だと認識されていると思いますが、近年では、機器の安全性を担保する機能の確認にもイミュニティ試験が取り入れられるようになってきています。IEC 61000-6-7、IEC 61326-3-1は機能安全の規格、IEC 60335-1は電気安全の規格でイミュニティが異常試験として取り入れられています。機器が安全性を確保するために電子回路を使用するようになったためです。機器の高性能化に伴う変化であり、中にはスマートフォンで離れた場所から操作できるようになった製品などもあります。今年はこの様な製品に対する電気用品安全法での対応をご紹介します。

高速インターネット網が普及し、スマートフォンを使って電気製品を遠隔操作することが増えてきました。これに伴い、世間的には、情報漏えいなどのセキュリティの問題が取り上げられることが多いですが、電気用品安全法の技術基準の解釈では、遠隔操作によって従来は見える位置から操作していた (動かしていた) 電気用品を見えない位置から操作すること (動き出すこと) によるリスクの増大がないことが要求されています。

ただしこれは最近の話であり、元々古くから使われている“遠隔操作機構”とは、赤外線リモコンが代表的なものであり、赤外線リモコンによる操作は見える位置からの操作を想定しています。このため、赤外線リモコンについては、従来からリスクとは誤動作によるものだけが考慮されています。

しかし、現在の遠隔操作は、スマートフォン等による見えない位置からの操作が含まれますので、誤動作以外にも次のような概要の要求事項が適用されます。

①  遠隔操作に伴う危険源がない又はリスクが低減されていること。

②  通信回線の故障等により遠隔操作ができなくなった場合でも、安全状態になること。

③  電気製品の近くにいる人の危険を回避するため、見える位置にある手元操作が優先されること/通信回線の切り離しができること。

④ 操作結果のフィードバックができること。

⑤  識別管理/外乱に対する誤動作/通信回線接続時の再接続を電気製品側に講じること。

⑥  公衆回線の一時的途絶で安全性に影響を与えないこと。

⑦  同時に2箇所以上からの遠隔操作を受け付けない対策を講じること。

⑧ 適切な誤操作防止対策を講じること。

⑨ 出荷状態では遠隔操作機能は無効にすること。

技術基準の解釈の要求事項は上記のとおりですが、この解釈を補足する意味で、電気用品調査委員会 (事務局:一般社団法人日本電気協会) から報告書や試験方法などの解説 (以下、「解説」 という。) が発行されています。この解説は、一般社団法人日本電気協会が発行する 「電気用品の技術基準の解説」 に添付されています。

また、最近では、スマートスピーカによって電気用品を操作するものがあり、これらはスマートフォンのような宅外からの操作ではなく、宅内操作を意図したものが主流です。宅内操作に関しては、少なくとも上記の①、⑤、⑧、⑨などに対する対応が必要となります。特に、スマートスピーカについては、⑧の誤操作防止に関しては、関心が多いところです。

このように、遠隔操作機構には、“見える位置”、“宅内操作”、“宅外操作”を意図したものがあり、それぞれに対して適用される要求事項が異なりますが、一部の操作を除いて 「誤動作対策」 が要求されます。このうち、見えない位置からの遠隔操作に対する誤動作については、解説で、イミュニティ試験が適用されます。この、適用規格は、JIS C 61000-4-3 (放射無線周波電磁界イミュニティ試験)、JIS C 61000-4-6 (無線周波電磁界によって誘導する伝導妨害に対するイミュニティ)、JIS C 61000-4-4 (電気的ファストトランジェント/バーストイミュニティ試験) となります。

ただし、この誤動作対策ですが、「誤動作すると危険 (直接的な感電、火災、傷害など)」というリスクではなく、「誤動作すると円滑に動作しない」 というリスクに対するものです。仮に 「誤動作すると危険」 な電気用品だとすると、見えない位置からの遠隔操作の場合、そもそも100%防ぐことが不可能な 「誤操作に対する危険」 がある機器となる可能性が高く、上記①により遠隔操作のリスクが回避できない電気用品となりますので、イミュニティ試験に合格するものでも不適合となる可能性が高いことを意味します。このように、遠隔操作については、見えない位置からでもある程度は、“きちんと動作”することが要求されており、その確認方法の1つとして、イミュニティ試験が採用されたものとなっています。

このように、製品の安全設計にEMCが密接に関係するようになり、製品の高性能化が進むにつれて、安全性・EMC・無線通信の評価が一体不可分な関係になりつつあります。私共では遠隔操作の試験のみならず、ちょっと珍しいIEC60335-1の試験にも対応しております。みなさまに最新の試験・測定サービスをご提供できる体制を整えるよう努めてまいりますので、本年も宜しくお願いいたします。