EMC最新動向2019-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-
IEC/TC106は,人体ばく露に関連する電磁界の評価方法の標準化を扱っており,人体防護ガイドライン等に示された電磁界への人体ばく露の基準値に対し,適合性の評価のための手法の標準化を行うことが活動の主眼となります。1999年の設立以降,本年が20周年の年にあたります。日本国内での活動は,IEC/TC106国内委員会 (多氣昌生委員長・首都大学東京) において行われており,下部に高周波と低周波の2つの委員会が設けられています。低周波委員会は,筆者が委員長を務め,電気事業連合会の諏訪三千男氏および日本電機工業会の井上博史氏に幹事を務めていただいております。本稿では,低周波 (おおむね100 kHz以下) ならびに低周波から高周波にまたがる活動について,2018年の活動状況を報告いたします。
電磁界中に置かれた物体に接触した際に人体を流れる 「接触電流 (contact current) 」 については,電磁界の人体への 「間接影響」 として,電磁界の人体防護ガイドラインにおいても回避することが規定されております。これまで,この接触電流の評価方法の標準化についての議論がなされていなかったことから,その必要性について,2015年のIEC/TC106総会において日本から指摘し,WG8において活動を進めて参りましたが (コンビーナを筆者が担当) ,2018年6月に,テクニカルレポート (IEC/TR63167) の発行に至りました。なお,電磁界の人体防護の分野における接触電流は,感電 (痛みを伴う電撃) を回避しようとするものですが,最近示されたICNIRP (国際非電離放射線防護委員会) のRFガイドラインの改訂原案によれば,従来の 「参考レベル」とは別の定義 (「ガイダンス」) により防護を行うことの提案がなされており,今後の動向に注視が必要になっています。
近年関心が高い,非接触電力伝送 (WPT:wireless power transfer) 装置周辺のばく露評価については,2015年のIEC/TC106総会においてWG9が設立され,Technical ReportがIEC/TR62905として2018年2月に発行されました。現在,新たなPT (PT63184) において,国際規格化に向けた検討が進められています。これらのWG,PTのコンビーナをNTTドコモの大西輝夫氏が務め,また情報通信研究機構 (NICT) の和氣加奈子氏が幹事を務めています。
電磁界の人体ばく露に関する評価方法の規格を作成する際に参照されることを意図した「EMFガイド文書」を作成するad hocグループ (AHG6) の活動が引き続き進められ,原案のひとまずの完成に至っております。日本からは,多氣委員長および筆者がエキスパートメンバーを務めています。本ガイド文書は,ACEC (電磁両立性諮問委員会) の文書として発行を目指すことになりますが,完成まではまだ時間がかかりそうです。
IEC 62311 (電磁界評価方法に関する共通規格) については,評価の基準となる低周波ICNIRPガイドラインの2010年の改正を受け,見直しの作業が進められてきましたが,CDV文書が承認され,現在FDIS作成作業が進められています。日本からは,日立製作所の横田等氏がエキスパートメンバーとして活動されています。
電気自動車 (EV) や充電装置など自動車の電気・電子機器から生じる電磁界の測定手順を定める規格策定作業につきましては,技術仕様書 (TS) を目指すこととなり,プロジェクトチーム (PT62764-1) において活動が進められております。日本からは,トヨタ自動車の野島昭彦氏,および日産自動車の塚原仁氏がエキスパートメンバーとして活動されています。
これらの活動におきましては,日頃の関係各位のご尽力・ご協力を賜っており,紙面を借りまして感謝申し上げます。今後とも,ご指導・ご支援をお願い申し上げ,新年のご挨拶とさせていただきます。