スマートフォンからの電波の安全性(月刊EMC)

2017.12.07 更新
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スマートフォンの登場に伴い、情報通信が生活により浸透する一方、新しい無線通信端末から発せられる電波の安全性に対する関心は小さくない。スマートフォンで用いられている電波の周波数における生体影響は、熱作用が支配的である。本稿では、電波に対する防護ガイドラインの根拠について概説するとともに、端末で用いられている電波の安全性について述べる。

1.はじめに

電波の健康影響に関してマスメディアで取り上げ始められたのは、WHO(世界保健機関)が本問題に取り組み始めた1990年代中頃からであり、携帯電話の普及しはじめた年代に相当する。それから20年ほど経った現在、電波の生体への影響に関する関心は依然小さくはない。

WHOは、電波防護に関する国際ガイドラインとして、ICNIRP(International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection国際非電離放射線防護委員会)ガイドライン1,2)およびIEEE/ICESInternational Commission on Electromagnetic Safety規格3,4)を推奨している。これらのガイドラインあるいは規格では、過去50年以上に及ぶ様々な分野の研究成果に基づき、既にわかっている健康への有害な影響を防止するための制限値を設けている。

健康への有害な影響とは、ばく露を受けた人またはその子孫の健康に確認可能な損傷を与えるものである5)。一方、健康への有害な影響になるかもしれないし、ならないかもしれないものは生物学的影響とされる。

新しい無線通信方式、端末が出現した際、人体への影響に対する関心は高まる傾向にある。スマートフォンの普及に伴い、情報通信がより一層身近なものとなってきた一方、安全性に対する関心も寄せられている。実際のところ、スマートフォンで用いられている電波の周波数および通信方式は、従来の携帯電話のものとほぼ同一である。主な相違としてスマートフォンにはLTE(Long Term Evolution)が搭載されていることが挙げられる。

このLTEでは、直交波周波数分割多重(OFDM)方式を採用し、帯域を少し広げるとともに、多値偏重が採用されている。一方で、端末からの送信電力については低くなっている。また、スマートフォンで用いられている電波の周波数帯は700MHz(予定)から2GHzであり、端末に搭載されている無線LANまで考慮すると、それに5GHz帯を加えることとなる。

本稿では、まず、健康影響を定義するにあたり、電磁波による物理刺激が何であるかについて概説する。次に、上記周波数帯において電波の人体影響と電波防護ガイドラインにおける数値ドシメトリが果たす役割について述べ、特に熱作用を評価した結果について紹介する。

続きは『月刊EMC No.307 』にて

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