開放端同軸プローブによる電波吸収体の電磁パラメータの広帯域・非破壊測定法(月刊EMC)

2018.1.10 更新
電磁気学・アンテナから考えるEMC(月刊EMC)

[背面を金属で裏打ちした損失試料に押し当てた開放端同軸プローブの構造]

 近年、ユビキタス情報社会の実現に向けた無線機器の発展および開発においては、従来の携帯電話や無線 LAN(Local Area Network)等の狭帯域無線技術に留まらず、超広帯域無線通信(UWB)、MIMO(Multiple Input Multiple Output)等、より広帯域・大容量・高速な新無線システムは広範な用途および場所に応用・展開されつつある。また、電磁環境の側面から見ると、多数の広帯域・狭帯域無線通信システムの普及および混在利用は、異種機器相互の干渉を引き起こすことが考えられ、それに相応する広帯域での解決手法もユビキタス情報社会の完全実現に関わる重要な位置を占めている。

 一方、電磁環境問題に対処するために電波吸収材が各所に多用されるが、これを構成している損失性シート状材料の局所的な定数の測定は、シート面内のばらつきも含めた材料の特性把握に必要である。マイクロ波帯域において、伝統的な材料定数測定法として、共振器法、自由空間法、導波管法等は最も一般的である。

 共振器法は、低損失材料の評価に非常に有効であるが、高損失材料測定においてはQ値が極めて低下するため不適切である。従来の導波管法においては、低・高損失材料の電気特性を所望の周波数範囲にわたり連続的に評価することが可能であるが、試料を導波管内に充填する必要があるため、評価する材料のシート面から、測定用試料を特定形状に切り出すことが必要である。

 自由空間法は広い周波数範囲で測定可能、試料加工不要などの特徴を持つ便利な方法であるが、回折の影響を低減するため、大きな測定試料を必要とし、周囲の壁等からの不要反射を除くために、広い開空間或いは電波暗室が必要となる。

 フランジ付き開放端同軸プローブに基づいた材料定数測定手法は、適用可能な周波数範囲が広く、かつ開構造であるため、被測定材料の形状加工が不要という利点を有し、ゆえに高損失固体材料定数の非破壊測定方法の一つとして脚光を浴びている。開放端同軸プローブを用いた測定法は、1980 年にS.Stuchly 氏が提案した手法であり、当初、生物体および液体媒質の誘電率の測定に多く用いられた。1990 年代から、電波吸収体、特に磁性電波吸収体の普及に伴い、この技術を電波吸収体の複素誘電率および複素透磁率の同時測定への応用が試みられ、一層の注目を集めている。

続きは『月刊EMC(No.319)』にて

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