【各方式の伝送電力と伝送距離】
近年、地球温暖化や PM2.5 に代表される大気汚染および化石燃料枯渇の問題に対処すべく自動車メーカーからは従来の内燃機関に代わるクリーンな電気自動車(EV)や電気バス、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)が発売されているが、搭載しているリチウムイオン電池のエネルギー密度と充電性能が満足できるレベルまで到達できておらず、本格的な普及には未だ至っていない。EV の普及には充電システムの普及が不可欠であるが、現在広く使われている接触式充電システムには幾つかの課題があり、それを解決する手段として大電力を安全、容易に充電できる各種ワイヤレス給電システムの開発が進んでいる。
ワイヤレス給電システムにも幾つか課題はあるが、その中でもワイヤレス給電は電磁波を使用するので、その電磁波の放射による EMC の抑制が必要とされている。本稿では自動車用のワイヤレス給電システムの開発の現状と、その電磁環境について述べる。
充電装置において、地上に置かれた電源装置から車両に電力を供給するコネクタ部のプラグとレセプタクルの組み合わせを充電カプラという。充電カプラは通電方式から、接触式と非接触式に大別される。接触式は金属同士のオーミック接触を用いて電気的に伝送するものであり、非接触方式とは一般的にはコイルとコイルを向かい合わせ、その間の空間を介して電磁気的に通電させて伝送するものである。伝送電力と伝送距離の点から、現在、実際の EV用などに開発されているワイヤレス給電方式は①電磁誘導式、②無線(マイクロ波)式、③磁界共鳴式の 3方式である。
1831 年に英国の Michael Faraday が磁気の変動から電気が発生することを見出した。静止している導線の閉じた回路を通過する磁束が変化すると、その変化を妨げる方向に電流を流そうとする電圧(起電力)が生じるという、変圧器の基本原理であるファラデーの電磁誘導法則の発見である。この電磁誘導の原理に基づき対向させたコイルと磁束収束用の磁性体を用い、送受電コイル間に共通に鎖交する磁束を利用するワイヤレス給電システムは、ギャップのある変圧器である。
続きは『月刊EMC No.322』にて
<特集>
◇新しい電磁波材料技術と電磁環境制御
・新しい電磁波材料技術と電磁環境制度 序説
(東海大学名誉教授 小塚洋司)
・メタマテリアルの特異物性と電磁波制御
(山口大学 真田篤志)
・非相反メタマテリアルと漏れ波ビーム走査アンテナの高効率化
(京都工芸繊維大学 上田哲也)
・リフレクトアレーによる電磁環境の制御技術
(東北大学 今野圭祐、陳強)
<Technology>
・自動車の無線電力伝送技術とEMC
(早稲田大学 髙橋俊輔)
・ループと平行平板を用いたワイヤレス電力伝送におけるアンテナ設計の基礎
(富士ゼロックス㈱ 奈良茂夫)
・フレキシブル基板を用いたウルトラワイドバンド平面アンテナの開発
(九州大学 金谷晴一)
・鉄道信号システムの動向とEMC
(日本大学 中村英夫)
・鉄道電源のEMC
(㈱トアック 力丸桂二)
<規格・規制情報>
・IEC 60730、JIS C 9730
自動車電気制御装置のEMC
((一財)日本ガス機器検査協会 田伏弘幸)
<実践講座>
・マイクロギャップ放電特性とESD対策
(千葉大学 山野芳昭)
・システム機器におけるEMI対策設計のポイント
(㈱エーイーティー 上田千寿)
インフォメーション
・ワイヤレス給電システム 国内外で検討進む
パブリックコメントは賛意多数
Copyright(C) Kagakujyoho shuppan Co., Ltd. All rights reserved.
※記事の無断転用を禁じます。