車両におけるラジオノイズ源の可視化技術(月刊EMC)

2018.4.2 更新
車両におけるラジオノイズ源の可視化技術(月刊EMC)

【ハーネスからの電磁界放射】

 環境保護、省エネルギーのため、ハイブリッド自動車や電気自動車の普及が進んでいる。これらの自動車の動力源にはモーターが使われ、モーターのエネルギー源は電池に蓄えられている。電池から取り出せる電源は直流で、モーターを効率よく制御して動作させるには直流を交流に変換するインバータが必要となる。

インバータはスイッチングによって直流を交流に変換するため電磁ノイズを発生する。発生したノイズはハーネス等によって伝搬し、車両内外のさまざまな部分から放射され、さまざまな電子機器に電磁干渉を引き起こす。特に、ほとんどの自動車に装備されている AM ラジオへの電磁干渉の対策は、自動車メーカーの技 術者にとって避けられない課題となっている。不要放射の様子は車種ごとに異なり、同じ車種でも仕様が異なると変化するので、対策には多大な労力が必要となる。

 電磁干渉は、不要放射源の位置を特定し、その部分に電磁シールドを施すことによって解決される。不要放射源の位置の特定は、電磁プローブとスペクトルアナライザを用いて人手によって行われるが、自動車にはダッシュボードの中や座席の下など、プローブが近づけない場所が多々存在し、このような場所にある不要放射源の位置を推定する技術が求められている。

 放射源から離れた位置での電磁界の観測データをもとに、仮想平面や金属面上の電流分布を推定する方法として、逆伝搬問題を用いる方法がある。これまでの研究では、測定面で得られる信号の位相が測定点の移動により十分変化することを前提としており、AM ラジオ帯のような波長の長い信号を扱う場合、測定規模が非常に大きくなって、現実の測定系で扱うことが難しい。近傍界の観測データを使って複数の波源の位置を推定する方法として MUSICや ESPRIT を SAGE に拡張した超分解技術の適用も提案されているが、非コヒーレントの波源の推定に留まっている。

 不要放射は、ハーネスの複数の箇所から発生する可能性があり、これらの超分解技術は適用できない。複数のアンテナからの放射のパッシブイメージング法も提案されているが、我々の検討では AM 帯への適用は困難であった。本稿では、複雑な 3 次元形状を持つ車体上を流れる AM ラジオ帯 (535-1605kHz) の電流源の位置を特定するため、逆伝搬問題を用いた計測手法について解説する。

続きは『月刊EMC No.336』にて

【月刊EMC No.336 目次情報】

<特集>
◇第21回 EMC環境フォーラム総合セッション
 2020年に向けてのEMC
・総合司会
 (次世代EMC 研究会会長/(公財)鉄道総合技術研究所会長/
  (一社)国際標準化協議会会長/東京大学名誉教授 正田英介)
・2~9kHz 周波数帯の電流エミッション限度値に対するTS 規格
 ((一財)電力中央研究所 雪平謙二)
・電磁波を利用する意図的な攻撃脅威について
 (日本オートマティック・コントロール(株) 瀬戸信二)
・鉄道システムのEMCとシミュレーション
 ((公財)鉄道総合技術研究所 川﨑邦弘)
・電磁界防護指針とばく露評価方法の動向
 (首都大学東京教授 多氣昌生)

<Technology>
・疑似アナログノイズを用いたスペクトラム拡散によるスイッチング電源のEMI 低減化
 (小山工業高等専門学校 小堀康功)
・車両におけるラジオノイズ源の可視化技術
 (静岡大学 桑原義彦)
・分散型電源における雷サージ対策と接地の重要性
 (中部大学 山本和男)
・インバータの出力側のノイズ問題とその対策
 (シャフナーEMC(株) 杉田久明)

<規格・規制情報>
・FCC の高周波機器認可プログラムの変更
 ((株)電磁環境試験所認定センター 小林修一)
・コネクタ・ケーブルアセンブリ品の伝達インピーダンス、遮蔽減衰量、結合減衰量試験
 ((株)フジクラ 小川幸三)

<実践講座>
・電磁気学的現象の利活用における地震予知研究
 -特に地震予知・防災における役割-⑤
 現在行われている有望と考えられる周波数ごとの地震予知研究(VHF 帯およびそれ以外の手法)
 (東海大学海洋研究所 地震予知研究センター長 長尾年恭)
・EMC測定・試験のポイント-今更、人に聞けないEMC用語解説②
 電源高調波
 (一般社団法人日本電機工業会 井上博史)
・EMC測定・試験のポイント-今更、人に聞けないEMC用語解説③
 静電気放電とそのイミュニティ試験
 ((株)ノイズ研究所 石田武志)
・EMC測定・試験のポイント-今更、人に聞けないEMC用語解説④
 TEM セル・GTEM セル
 (国立研究開発法人 情報通信研究機構 石上忍)

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