ワイヤレスボディエリアネットワークにおける電波伝搬(月刊EMC)

2018.4.9 更新
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【ワイヤレスボディエリアネットワークの
通信シナリオ】

 WBAN(wireless body area networks; ワイヤレスボディエリアネットワーク、人体近傍無線通信)は、複数のデバイスを人体内、人体上または人体周辺に設置することで人体間および人体周辺の通信を行う近距離無線通信ネットワークで、医療・ヘルスケア分野への応用が期待されている。応用例としては加速度、体温、心拍、脳波、心電や筋電などの測定および、そのような測定に基づくヘルスケアモニタリングなどである。さらに音楽やスポーツなどエンターテイメントの様々な分野で開発が進められ、既に WBAN 市場が立ち上がっている。

 WBAN は 2012年に国際標準化団体 IEEE802.15.6 で標準化活動が完了した。IEEE802.15.6 の物理層には複数の無線方式があり、400 MHz 帯から 2.4 GHz 帯までの周波数を用いた狭帯域通信、インパルス方式の UWB(Ultra Wideband;超広帯域無線)を利用した超広帯域通信、および人体を信号の伝送媒体として用いる人体通信を含んでいる。

 英国の Toumaz Limited は、患者の生体信号を無線でモニタリングする低出力システム SensiumVitals ®を開発している。SensiumVitals ® は、患者の体温・心拍数・呼吸数の変化を迅速に検知することができ、医師や看護師のページャーやスマートフォンにアラートを自動送信したり、病院の電子カルテシステムに送ったりするように設定できる。米国における試験運用では、定期的な病棟回診の合間に病状が悪化した患者をすべて検知し、より深刻な臨床問題の発生を防ぎ、患者 1 人・入院 1 回当たり平均およそ9,000 ドルの経費削減をもたらした。

 2012年頃からは、スマートフォンの補完アイテムとしてスマートウォッチが登場した。より健康な生活を送ることを目的に、2014 年に日本のエプソンが PULSENSE ®、今年 2015 年には米国のアップルが Apple WATCH ®を販売し、スマートウォッチ市場が盛り上がってきている。PULSENSE ® 、Apple WATCH ® ともにLEDと光センサを用いた高精度脈拍センサを搭載しており、腕に装着すると、血中のヘモグロビンが光を吸収する性質を利用して、血流の変化で脈拍数を連続して計測する。

 また、加速度センサにより活動量、消費カロリーや睡眠の質を推定する。これらのデバイスは、スマートフォンとの通信に 2.4 GHz 帯のBluetooth ® を利用している。より高信頼な生体情報の収集、省力かつ効率の良いモニタリングシステムの構築など WBAN デバイスおよびアプリケーションの高度化に資するため、現在も様々な研究機関において研究が行われている。

続きは『月刊EMC No.337』にて

【月刊EMC No.337 目次情報】

<巻頭>
・安心安全な先進的医療機関と電波利用とEMC

<特集>
◇マルチメディア機器のEMC
・マルチメディア機器における無線電力伝送(WPT)とEMC
 ((一財)VCCI協会 長部邦広)
・マルチメディア機器のエミッションに関わる将来課題
 (PFUテクノコンサル(株) 千代島敏夫)
・近傍放射電磁界イミュニティ試験法に関する知見
 (NTTネットワーク基盤技術研究所 奥川雄一郎、広島芳春、高谷和宏、秋山佳春)

<Technology>
・光トランシーバにおけるEMC設計
 (住友電気工業(株) 大森寛康)
・電子式電力量計の雷故障様相とその対策
 ((一財)電力中央研究所 浅川聡)
・ワイヤレスボディエリアネットワークにおける電波伝搬
 (東京電機大学 小林岳彦、広瀬幸)

<規格・規制情報>
・医用電気機器IEC 60601-1-2 対応のための製品安全とリスクマネジメント
 ((株)アイピーエス 山口哲志)
・自動車放射イミュニティレーダーパルスイミュニティ試験概要解説
 ((一社)KEC 関西電子工業振興センター 岡元裕則、峯松育弥)

<実践講座>
・新・回路レベルのEMC 設計 ⑰
 モード変換の表現可能な等価回路モデルを用いたノイズ解析
 (岡山大学 豊田啓孝)
・EMC測定・試験のポイント-今更、人に聞けないEMC用語解説 ⑤
 電磁妨害の結合路
 (東京大学 徳田正満)
・EMC測定・試験のポイント-今更、人に聞けないEMC用語解説 ⑥
 空間のインピーダンス
 ((株)NTT ドコモ 大西輝夫)

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