【インバータとその周辺に発生するノイズ】
日本国内を取り巻く電力事情は電力自由化をはじめ、大きく変化してきており、省エネに対する関心は日に日に高まっている。省エネ対策としてインバータの採用は非常に有効な手段であり、採用される範囲も年々広がってきている。インバータはモータの制御に対して非常に利便性の高い機器である一方、半導体のスイッチング動作を利用した回路であることから、非常に大きなノイズを発生させ、ラジオノイズなどさまざまなところで悪影響を及ぼす可能性がある。
インバータはその特性上、非常に高いエミッションノイズを発生させ、入力の電源線に高調波やラインノイズ(雑音端子電圧)を発生させる。そのため、インバータの入力側には国内外で様々な規制が設けられており、その対策として、高調波には AC リアクトルや高調波フィルタ等を、ラインノイズ対策として EMI ノイズフィルタ等の使用が推奨されている。
インバータはその出力側の配線を通じて交流モータを制御することを目的としている。前述のように、インバータの入力側のノイズ問題に関してはユーザーに対策が周知されてきている一方、その出力側に発生するノイズが引き起こす諸問題について認識されている人は少なく、そのような内容を示す文献もほとんど存在しないのが実情である。しかしながら現実にはインバータとモータの間においては多くの潜在的な問題があり、特に長期的に使用される環境において影響が出ることが多い。
一般的にインバータのスイッチング時の損失を低減するために、スイッチング素子のスイッチング時間をできるだけ短くする傾向にある。例えば、IGBT の種類によっては 12kV/μs 以上の立ち上がり時間が計測されることもある。一般的に dv/dt が1000V/μs 未満ならばモータの許容範囲であると考えられる。
およそ 20m までの短いモータケーブルの場合、このような立ち上がり時間は電源線のラインインピーダンスが小さいため、モータ巻線の絶縁に影響を及ぼす。モータの構造上、巻線は密接して並列に配置されるため、巻線間には短いものであっても寄生容量が発生し、連続的に dv/dt ノイズが印加されると巻線の絶縁に対して寄生容量による損失を発生させてしまう。このとき、エナメルの絶縁に僅かでも問題があれば、これが巻線に「ホットスポット」を発生させ、長期間使用し続けているとモータの巻線絶縁の破壊につながる。
続きは『月刊EMC No.336』にて
<特集>
◇第21回 EMC環境フォーラム総合セッション
2020年に向けてのEMC
・総合司会
(次世代EMC 研究会会長/(公財)鉄道総合技術研究所会長/
(一社)国際標準化協議会会長/東京大学名誉教授 正田英介)
・2~9kHz 周波数帯の電流エミッション限度値に対するTS 規格
((一財)電力中央研究所 雪平謙二)
・電磁波を利用する意図的な攻撃脅威について
(日本オートマティック・コントロール(株) 瀬戸信二)
・鉄道システムのEMCとシミュレーション
((公財)鉄道総合技術研究所 川﨑邦弘)
・電磁界防護指針とばく露評価方法の動向
(首都大学東京教授 多氣昌生)
<Technology>
・疑似アナログノイズを用いたスペクトラム拡散によるスイッチング電源のEMI低減化
(小山工業高等専門学校 小堀康功)
・車両におけるラジオノイズ源の可視化技術
(静岡大学 桑原義彦)
・分散型電源における雷サージ対策と接地の重要性
(中部大学 山本和男)
・インバータの出力側のノイズ問題とその対策
(シャフナーEMC(株) 杉田久明)
<規格・規制情報>
・FCC の高周波機器認可プログラムの変更
((株)電磁環境試験所認定センター 小林修一)
・コネクタ・ケーブルアセンブリ品の伝達インピーダンス、遮蔽減衰量、結合減衰量試験
((株)フジクラ 小川幸三)
<実践講座>
・電磁気学的現象の利活用における地震予知研究
-特に地震予知・防災における役割-⑤
現在行われている有望と考えられる周波数ごとの地震予知研究(VHF 帯およびそれ以外の手法)
(東海大学海洋研究所 地震予知研究センター長 長尾年恭)
・EMC測定・試験のポイント-今更、人に聞けないEMC用語解説②
電源高調波
(一般社団法人日本電機工業会 井上博史)
・EMC測定・試験のポイント-今更、人に聞けないEMC用語解説③
静電気放電とそのイミュニティ試験
((株)ノイズ研究所 石田武志)
・EMC測定・試験のポイント-今更、人に聞けないEMC用語解説④
TEM セル・GTEM セル
(国立研究開発法人 情報通信研究機構 石上忍)
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