MIMO 方式を採用した船舶レーダの干渉対策(月刊EMC)

2018.5.9 更新
MIMO 方式を採用した船舶レーダの干渉対策(月刊EMC)

【電波環境適応レーダの構成】

 船舶レーダにとって、他船レーダから送信される信号は、いわゆる干渉信号であり、レーダの探知機能を妨げる。特に、多数の船舶が航行する過密海域において、他船レーダの信号は、レーダ画像に多く重畳し、物標信号の視認を困難にする。そのような干渉への対策として、現行レーダではレーダ画像上の干渉を除去する信号処理(干渉除去処理)が用いられている。

 近年、固体素子の安定した発振による狭帯域化の実現が注目され、船舶レーダは従来のマグネトロンレーダから固体素子レーダへと移行が進んでいる。しかし、尖頭電力が小さい固体素子レーダは感度を確保する目的で長いパルスを送信するので他船に干渉を与えやすい欠点がある。そのため、船舶レーダが固体素子レーダに置き換わった将来、過密海域ではレーダ干渉が、従来の干渉除去処理で除去可能な量を超えることが予想される。筆者らは、総務省の委託研究「電波資源拡大のための研究開発」の一環として、将来の船舶レーダの干渉対策となる研究開発に取り組んだ。

 厳しい干渉状況(電波環境)で船舶レーダを通常時と同様に運用可能とするには、レーダが干渉の受信を低減でき、受信した干渉状態を把握するとともに信号処理を最適化する技術が重要である。干渉の受信を低減するため干渉抑圧機能を有する電子走査アンテナと、干渉把握と信号処理最適化を実行するため電波環境適応技術を開発した。本研究開発では、将来の過密海域を想定し、半径 5 海里以内に 400 台の固体素子レーダが存在する状況で干渉除去できることを到達目標として設定した。この目標性能は、従来の干渉除去処理の 7 倍を超える性能である。

 電子走査アンテナは、構成する複数素子の信号を利用して、特定方向から到来する信号を抑圧できるので干渉抑圧に有利である。しかし、6 フィートの開口を必要とする船舶レーダと同等の角度分解能を得る目的で、一般的な電子走査アンテナであるフェーズドアレイ方式を利用した場合、110 個程度の素子を必要とするため、送受信機の構成が大規模で複雑になる。その問題に対して、Multiple-Input Multiple-Output(MIMO)方式を用いて、素子数を 32 素子まで低減した。

 これは、船舶レーダとして世界初のMIMO 方式レーダを実現したことになる。MIMO 方式レーダは素子数を低減できる反面、素子間の特性ばらつきに敏感であるため、サイドローブを生じやすい。サイドローブを低減するため、アンテナ素子の配置法を重要な関連技術として獲得した。

続きは『月刊EMC No.339』にて

【月刊EMC No.339 目次情報】

<特集>
◇ESD/EOSの基本と実態・対策、耐性試験法
・マイクロギャップESDに伴うインパルス性ノイズの放射強度と電極接近スピード
 (東北学院大学 川又憲)
・静電気放電イミュニティ試験を正しく実施するための実験的解説
 (㈱ノイズ研究所 石田武志)
・最新電子機器で発生する非直撃的なEOS/ESD事象と対策
 (㈱インパルス物理研究所 本田昌實)
・放電現象からみたシステムESD試験の基本的問題点について
 ((一財)日本電子部品信頼性センター 田中政樹)

<Technology>
・MIMO方式を採用した船舶レーダの干渉対策
 (日本無線㈱ 時枝幸伸)
・EMCを低減するベクトル合成を用いたワイヤレス給電法
 (静岡理工科大学 郡武治)
・UPSの活用による電源ノイズ対策事例
 (オムロン㈱ 林昭)
・導電性ペーストによる小型船舶のレーダー反射率向上
 (国立研究法人 海上技術安全研究所 藤本、穴井、山根、村上、西崎、白石)
・ICチップの低消費電力化とオンチップノイズ低減化技術
 (芝浦工業大学 宇佐美公良)
・医療環境における高速電力線搬送通信(PLC)の導入実験とEMC
 (佐賀大学 花田英輔、東京医療保健大学 石田開)

<実践講座>
・ビル・工場における接地システム設計の知識 [Ⅰ]
 (関東学院大学 高橋健彦)
・EMC測定・試験のポイント―今更、人に聞けないEMC用語解説
 ⑧同軸ケーブル     (電気通信大学 名誉教授 上芳夫)
 ⑨平衡ケーブル     (電気通信大学 名誉教授 上芳夫)
 ⑩伝送線路       (電気通信大学 名誉教授 上芳夫)
 ⑪スペクトラムアナライザ(ローデ・シュワルツ・ジャパン㈱ 吉本修)

<規格・規制情報>
・IEC61000-6-5第1版
 発変電所環境イミュニティ共通規格改訂のポイント
(東北学院大学 石上忍)

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