EMCを低減するベクトル合成を用いたワイヤレス給電法（月刊EMC）

　EV/PHEV 用ワイヤレス給電システム（WPT システム）など大容量な非接触給電の標準化が行われ、実用化が近い。本稿はこのような大容量非接触給電において生じる EMC を原理的にかつ積極的に軽減する手法を提案するものである。

　50Hz、60Hz の低周波数を用いる有線による電力送電では、よく知られているように数万 V、数 100V の 高圧線による配電が行われ、電磁誘導障害をなくすため、三相交流の給電線を平行に配線することにより、電流により生じる磁場をベクトル合成し、軽減している。このため、地上では高電圧線により生じる電磁波の影響はほとんど受けない。

　同じように、WPT システムに用いる非接触給電部をあえて複数設け、三相の給電電流による給電を行うことにより、様々な要因により生じる EMC が、シールドなどによる軽減ではなく、三相のベクトル合成により軽減が可能であると考えた。特に現在実用化されようとしている 80kHz 帯は波長が非常に長い極長波であり、給電部間距離は波長に比べ無視できる程度に短く、伝搬距離差による不整合はないものと考えられる。家電機器用 WPT も同様の周波数帯を用いることから、本 EMC 軽減法は適用可能である。

　EV/PHEV 用ワイヤレスシステム給電では数 kWの大容量給電であることから EMC 軽減は重要であり、提案方法の効果が期待できる。さらに給電ユニットのアライメント（給電側と受電コイルの位置合わせ）など不整合による漏洩電磁波など考慮すべき所があり、提案方法は有用であると考えられる。

　本文では、最初にベクトル合成による EMC 軽減の原理を説明し、近接電磁波伝搬モデルを用いたシミュレーションにより効果を推定する。次に 85kHz の三相交流を用いたワイヤレス給電による実証実験を実施する。計算機シミュレーションによる結果及び実証実験結果から、理論的には 10dB 以上、実測においても 5dB 程度の EMC 軽減効果が得られることを確認し、実用の可能性の高いことが分かった。

ベクトル合成によるワイヤレス電力伝送システム構成

　ベクトル合成を用いたワイヤレス電力伝送漏洩電磁波軽減法の原理を図に示す。給電源の交流電流の位相をずらし（例 : 0 相 , 2/3π相 , −2/3π相）、複数の給電回路を用いて、同時に給電を行う。漏洩電磁波も同様の位相がずれているため、合成すると、給電点からの距離が等しい場合、原理的には 0 になる。

　また、給電に用いられる磁界共鳴、電界共鳴、電磁誘導の周波数は数 10Hz~500kHz 程度であり、波長 は 60km 以上と非常に長く、複数の電力伝送回路から生じる伝搬距離差は波長に比べ非常に小さくなる。従って、給電コイルからの距離差によるベクトル不平衡は非常に小さいと考えられる。

続きは『月刊EMC No.339』にて

【月刊EMC No.339 目次情報】

＜特集＞
◇ESD/EOSの基本と実態・対策、耐性試験法
・マイクロギャップESDに伴うインパルス性ノイズの放射強度と電極接近スピード
　（東北学院大学 川又憲）
・静電気放電イミュニティ試験を正しく実施するための実験的解説
　（㈱ノイズ研究所 石田武志）
・最新電子機器で発生する非直撃的なEOS/ESD事象と対策
　（㈱インパルス物理研究所 本田昌實）
・放電現象からみたシステムESD試験の基本的問題点について
　（(一財)日本電子部品信頼性センター 田中政樹）

＜Technology＞
・MIMO方式を採用した船舶レーダの干渉対策
　（日本無線㈱ 時枝幸伸）
・EMCを低減するベクトル合成を用いたワイヤレス給電法
　（静岡理工科大学 郡武治）
・UPSの活用による電源ノイズ対策事例
　（オムロン㈱ 林昭）
・導電性ペーストによる小型船舶のレーダー反射率向上
　（国立研究法人 海上技術安全研究所 藤本、穴井、山根、村上、西崎、白石）
・ICチップの低消費電力化とオンチップノイズ低減化技術
　（芝浦工業大学 宇佐美公良）
・医療環境における高速電力線搬送通信（PLC）の導入実験とEMC
　（佐賀大学 花田英輔、東京医療保健大学 石田開）

＜実践講座＞
・ビル・工場における接地システム設計の知識 [Ⅰ]
　（関東学院大学 高橋健彦）
・EMC測定・試験のポイント―今更、人に聞けないEMC用語解説
　⑧同軸ケーブル　　　　　（電気通信大学 名誉教授 上芳夫）
　⑨平衡ケーブル　　　　　（電気通信大学 名誉教授 上芳夫）
　⑩伝送線路　　　　　　　（電気通信大学 名誉教授 上芳夫）
　⑪スペクトラムアナライザ（ローデ・シュワルツ・ジャパン㈱ 吉本修）

＜規格・規制情報＞
・IEC61000-6-5第1版
　発変電所環境イミュニティ共通規格改訂のポイント
（東北学院大学 石上忍）

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