医療環境における高速電力線搬送通信(PLC)の導入実験とEMC（月刊EMC）

　医療現場への無線通信の導入が急速に進んでいる。診療情報の電子化が進んだことで院内 LANを用いた情報共有への需要が高まったところに、IEEE802.11n や IEEE802.11ac等、高速無線 LANの規格化が進み、また機器が安価に購入可能になったことなどが要因と考えられる。ベッドサイドで患者の最新情報を参照または入力する目的で無線 LANを導入する病院は増えており、規模が大きいほどその傾向がある。

　無線 LAN機器の導入は一般家庭にも及び、インターネットサービスプロバイダ (ISP) も光回線の宅内部分を無線 LAN とした商品を売り込んでいる。公衆無線 LANの整備も進みつつある。タブレット端末やスマートホンなど、原則的に有線 LANを使用できない端末の普及も無線導入を後押ししている。

　病院情報システムのサーバと端末を結ぶネットワークについて、安定利用と通信速度の観点では有線 LANを活用する方が現時点では有利である。この要因は無線通信では電磁ノイズ等による通信速度低下の可能性があり、またセッション単位で通信帯域を確保する手段が確立されていないことなどがある。医療機器を使用する現場における電磁ノイズ発生源として、無線 LANと同じ周波数帯（2.4GHz 帯）を用いる電子レンジやマイクロ波治療器がある。

　また外部からの侵入してくる無線 LAN電波も今後増えていくことは容易に想像できる。特に外来侵入波は対策を施さない限り制御できないため、今後は問題が深刻化することが懸念される。これらの点からも、住宅地やビル内に立地する診療所など小規模な医療機関では、安定かつ確実な通信手段として有線 LANに優位性があると考える。

　有線 LAN には使用周波数の制限やローミングに起因する問題、電波傍受による情報漏洩の恐れは無いと言ってよい。既存建物に有線 LANを追加的に敷設することはそれほど難しくないが、ケーブルの引き回しや新たな電源の設置などの工事が必要となる。すでに開業している医療機関内、特に病棟においてケーブルの引き回し工事の実施は難しい。またケーブルは引き回し方によっては医療安全（労働安全）上の問題を生じる事もある。

　一方、わが国の高速電力線搬送通信（Power LineCommunication、以下、PLC）は屋内での使用が解禁されているが、普及は進んでいない。医療現場におけるその大きな要因として、医療機器への影響に言及した厚生労働省通知の存在がある。本稿では、今後医療現場で起こると考えられる問題点に対する解決策としての PLC 選択に向けた条件、また実現に向けた実験結果と今後の予定について述べる。

続きは『月刊EMC No.339』にて

【月刊EMC No.339 目次情報】

＜特集＞
◇ESD/EOSの基本と実態・対策、耐性試験法
・マイクロギャップESDに伴うインパルス性ノイズの放射強度と電極接近スピード
　（東北学院大学 川又憲）
・静電気放電イミュニティ試験を正しく実施するための実験的解説
　（㈱ノイズ研究所 石田武志）
・最新電子機器で発生する非直撃的なEOS/ESD事象と対策
　（㈱インパルス物理研究所 本田昌實）
・放電現象からみたシステムESD試験の基本的問題点について
　（(一財)日本電子部品信頼性センター 田中政樹）

＜Technology＞
・MIMO方式を採用した船舶レーダの干渉対策
　（日本無線㈱ 時枝幸伸）
・EMCを低減するベクトル合成を用いたワイヤレス給電法
　（静岡理工科大学 郡武治）
・UPSの活用による電源ノイズ対策事例
　（オムロン㈱ 林昭）
・導電性ペーストによる小型船舶のレーダー反射率向上
　（国立研究法人 海上技術安全研究所 藤本、穴井、山根、村上、西崎、白石）
・ICチップの低消費電力化とオンチップノイズ低減化技術
　（芝浦工業大学 宇佐美公良）
・医療環境における高速電力線搬送通信（PLC）の導入実験とEMC
　（佐賀大学 花田英輔、東京医療保健大学 石田開）

＜実践講座＞
・ビル・工場における接地システム設計の知識 [Ⅰ]
　（関東学院大学 高橋健彦）
・EMC測定・試験のポイント―今更、人に聞けないEMC用語解説
　⑧同軸ケーブル　　　　　（電気通信大学 名誉教授 上芳夫）
　⑨平衡ケーブル　　　　　（電気通信大学 名誉教授 上芳夫）
　⑩伝送線路　　　　　　　（電気通信大学 名誉教授 上芳夫）
　⑪スペクトラムアナライザ（ローデ・シュワルツ・ジャパン㈱ 吉本修）

＜規格・規制情報＞
・IEC61000-6-5第1版
　発変電所環境イミュニティ共通規格改訂のポイント
（東北学院大学 石上忍）

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