電磁シールド壁による無線 LAN の干渉対策(月刊EMC)

2018.6.18 更新
電磁シールド壁による無線 LAN の干渉対策(月刊EMC)

【周波数選択型シールド性能を考察するための解析モデル】

 WiFi 通信で使われる無線 LAN は、通信免許が不要な ISM 帯周波数を利用していることから、無線LAN の発信点となるアクセスポイント(以下、APという)は、誰もがどこにでも自由に設置することができる。そのため WiFi 通信は、一般のオフィスや会議室だけでなく、各種商業施設などにおいても公衆無線 LAN として広く普及している。近年では2.4GHz 帯の無線 LAN を中心に、災害時の避難情報を迅速に伝達する手段としての活用が見込まれるようになり、全国の自治体による公衆無線 LAN の設置が進められつつある。

 しかし都市部などの人口密集地では、屋外での利用が可能な 2.4GHz 帯無線 LAN の AP が乱立し、異なる AP からの通信波の混信・干渉が避けられない状況にある。通信機器側では、混信を避ける手段として国内の 2.4GHz 帯無線 LAN では 14 のチャンネルが用意されてはいるが、干渉を避けて使えるチャンネル数は実質的に 3 チャンネルに限られる。設置される AP があまりに多い都市部などの環境ではチャンネル不足を十分に解消することができず、混信による通信速度の低下や通信切断の頻発は避けられない状況にある。

 ひとつの代替案として電波干渉の少ない 5GHz 帯への移行が提案されているが、5GHz 帯を屋外で利用する場合には気象レーダー電波との干渉がないことを確認することが条件となっており、また電波の減衰が大きく通信可能範囲が 2.4GHz 帯に比べて狭いため、広いエリアでの商業利用や、緊急を要する災害情報伝達には不向きである。こうしたことから 2.4GHz 帯無線 LAN が依然、広く活用されているが、都市部ではチャンネル不足による電波干渉が問題となっている。2.4GHz 帯通信環境の電波干渉問題を解決するには、用途や目的、所有権などで区切られるそれぞれの通信エリアを明確な境界で適切に区分し、互いの通信波が干渉しあわないように通信波を遮蔽する電磁波シールド対策の適用が重要となる。

 このような状況を受け、2013 年 1 月に総務省が公表した企業向け無線 LAN 導入ガイドライン「企業等が安心して無線 LAN を導入・運用するために」では、管理面の対策として「電波の伝播範囲の適切な設定」が盛り込まれ、「通信の傍受、無線 LAN を経由した内部ネットワークへの侵入、電波干渉による通信速度低下等の危険性を低減するため、電波の伝搬範囲を制限する」こととされた。その具体的な対策方法として、「無線 LAN 利用区画と非利用区画の間に電波遮蔽シート等を使用する。」とされている。


続きは『月刊EMC No.342』にて

【月刊EMC No.342 目次情報】

<特集>
◇鉄道における無線列車制御とEMC
・海外鉄道の無線関連電磁ノイズ問題と解決事例
 ((独)自動車技術総合機構 交通安全環境研究所 渡邉朝紀)
・CBTC(通信ベース列車制御)システムの開発ー無線式システム適用と展開
 (タレスジャパン(株) 林剛)
・無線通信障害とCBTC 実用化
 (日本信号(株) 研究開発センター安全研究室 八木誠)

<Technology>
・電磁シールド壁による無線LANの干渉対策
 (東急建設(株) 川瀬隆治、青山学院大学 橋本修)
・無線AP 置局設計支援ツールによる干渉対策事例と稠密環境に適した無線LAN の標準化動向
 (NTTサービスエボリューション研究所 新倉康巨、鈴木晃、泉俊光、村松真知、花籠靖、
  NTTアクセスサービスシステム研究所、鷹取泰司、松井宗大、溝口匡人)
・車載インバータの電磁ノイズ設計を実現する車両全体解析技術
 ((株)日立製作所 李ジャア、船戸裕樹、高橋昌義、
  日立アメリカ 方田勲、日立オートモティブシステムズ(株) 坂本英之、齋藤隆一)
・近距離無線システムSUN における通信量制御に関する一考察
 (国立研究開発法人 情報通信研究機構 児島史秀)
・近接イミュニティ試験用薄型プレート広帯域アンテナ特性
 ((株)ノイズ研究所 久保崇将)

<実践講座>
・製品の信頼性を高めるLSIのEMC設計①
 半導体集積回路設計と電磁両立性概要
 (ローム(株) 稲垣 亮介)
・EMC測定・試験のポイント-今更、人に聞けないEMC用語解説⑭
 IEC 61000-4-8 電源周波数磁界イミュニティ試験
 ((株)e・オータマ 田路明)
・建築設備の安全設計とEMC③
 ビル・工場における接地システム設計の知識
 (関東学院大学 高橋健彦)
・欧州市場への製品輸出とEMC⑤
 NLFを含めたCEマーキングに関連する指令と考慮すべき関連製品指令との関係
 (運用システムに関係する場合が多い)
 (グローバル・テクノマネジメント研究所 平戸昌利)

<規格・規制情報>
・舶用機器のEMC に関する船級要件
((一財)日本海事協会 松尾守)

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