【車載機器と車両の開発フローにおける車両解析の位置づけ】
近年、自動車分野では環境負荷と資源消費を低減するため、ハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle:HEV)や電気自動車(Electric Vehicle:EV)に注目が集まっており、国際的に普及が進みつつある。
重量が1トン以上の HEV や EV を駆動するために使用される交流モータは、主に三相電圧型のインバータにより制御される。この駆動用インバータは、数百ボルトにおよぶ高電圧バッテリの直流電圧を三相交流電圧に変換してモータを駆動する。その電力変換は IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)など半導体素子のスイッチング動作により行われる。
スイッチング周波数は一般的に数 kHzから十数 kHz 程度であり、一定周期ごとに方形波出力電圧のパルス幅を変化させる PWM(Pulse Width Modulation)制御方式などを適用することでモータ駆動電流や回転数を制御し、任意の車速やトルクを得る。このようにインバータを利用することで細かなモータ制御を実現できるが、その一方で、半導体のスイッチング動作に伴い発生する不要な電磁ノイズが車載ラジオなど他の車載電子機器に干渉しないよう、電磁ノイズの低減が必須となる。
このため、自動車分野では全ての車載電子機器に対してCISPR25(Comite International Special des Perturbations Radioelectroniques)などの国際規格により許容ノイズ量が規定されており、さらに国内外の自動車メーカはこれら国際規格に加えて厳しい自主 EMC(Electro-magnetic Compatibility)規格を設けている。インバータを含め、全ての車載電子機器は EMC 試験によりこれら EMC 規格への適合を確認しなければならない。インバータのように kW 以上の大電力動作を伴う機器は、電磁ノイズ量を規制値以下にするため、特に電磁ノイズの抑制設計が重要である。
本稿では、車載インバータの電磁ノイズ抑制設計実現に向けて開発した車両搭載時のインバータからの放射エミッションを予測する車両全体解析技術について述べる。まず、インバータにおける電磁ノイズ発生メカニズムと放射エミッション試験について述べる。その後、開発した車両全体解析技術について述べる。
HEV や EV において、インバータ、モータおよびバッテリはケーブルや配線で接続される。インバータの半導体スイッチング動作により出力するパルス電圧は、ケーブルを通してモータに印加される。このパルスは急峻な電圧変化および電流変化による高周波成分を含み、モータ巻線と金属製モータ筐体との間の浮遊容量を介して、モータ筐体に漏洩する。
さらに、モータ筐体は車体と電気的に接続されるため、この漏洩電流はモータ筐体を介して車体に流れる。この車体に漏洩した電流から電磁ノイズが放射され、車両内外の空間を伝播し、車載ラジオなど他の車載電子機器に電磁干渉する。
続きは『月刊EMC No.342』にて
<特集>
◇鉄道における無線列車制御とEMC
・海外鉄道の無線関連電磁ノイズ問題と解決事例
((独)自動車技術総合機構 交通安全環境研究所 渡邉朝紀)
・CBTC(通信ベース列車制御)システムの開発ー無線式システム適用と展開
(タレスジャパン(株) 林剛)
・無線通信障害とCBTC 実用化
(日本信号(株) 研究開発センター安全研究室 八木誠)
<Technology>
・電磁シールド壁による無線LANの干渉対策
(東急建設(株) 川瀬隆治、青山学院大学 橋本修)
・無線AP 置局設計支援ツールによる干渉対策事例と稠密環境に適した無線LAN の標準化動向
(NTTサービスエボリューション研究所 新倉康巨、鈴木晃、泉俊光、村松真知、花籠靖、
NTTアクセスサービスシステム研究所、鷹取泰司、松井宗大、溝口匡人)
・車載インバータの電磁ノイズ設計を実現する車両全体解析技術
((株)日立製作所 李ジャア、船戸裕樹、高橋昌義、
日立アメリカ 方田勲、日立オートモティブシステムズ(株) 坂本英之、齋藤隆一)
・近距離無線システムSUN における通信量制御に関する一考察
(国立研究開発法人 情報通信研究機構 児島史秀)
・近接イミュニティ試験用薄型プレート広帯域アンテナ特性
((株)ノイズ研究所 久保崇将)
<実践講座>
・製品の信頼性を高めるLSIのEMC設計①
半導体集積回路設計と電磁両立性概要
(ローム(株) 稲垣 亮介)
・EMC測定・試験のポイント-今更、人に聞けないEMC用語解説⑭
IEC 61000-4-8 電源周波数磁界イミュニティ試験
((株)e・オータマ 田路明)
・建築設備の安全設計とEMC③
ビル・工場における接地システム設計の知識
(関東学院大学 高橋健彦)
・欧州市場への製品輸出とEMC⑤
NLFを含めたCEマーキングに関連する指令と考慮すべき関連製品指令との関係
(運用システムに関係する場合が多い)
(グローバル・テクノマネジメント研究所 平戸昌利)
<規格・規制情報>
・舶用機器のEMC に関する船級要件
((一財)日本海事協会 松尾守)
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