フル SiC ハイブリッド車時代に要求されるEMC 技術(月刊EMC)

2018.7.6 更新
フル SiC ハイブリッド車時代に要求されるEMC 技術(月刊EMC)

【ハイブリッド車用 PCU の基本構成】

 2020 年、世界で初めてトヨタ自動車の量産ハイブリッド車に SiC パワー半導体が搭載されることが決定した(トヨタ自動車が 2014 年 5 月 20 日に報道)。ここで2015 年現在において分かっていることは、ダイオード側だけでなく FET 側も SiC 化されたフル SiC 電力変換器となる、スイッチング周波数が現在の 10kHz から50kHz~80kHz に上昇する、という 2 点である。上記2 点について、それぞれ技術的な思惑が存在する。

 前者においては、SiC パワー半導体の高い接合温度駆動が可能となる耐熱性能を活かした車載用冷却システムの簡易化である。現在のハイブリッド車はエンジン冷却用の 110℃系と電力変換器冷却用の65℃系の冷却ラインに分割されている。これは従来のシリコンパワー半導体の代表である Si IGBT を使用しているからである。

 この冷却ラインはラジエータ、冷却水配管ライン、冷却水循環用ポンプ等から構成され、2 つの冷却系統確保はコストと重量の追加を意味する。これに対して、接合温度が 200℃を超えて駆動可能な SiC MOS-FET を車載用電力変換器に適用した場合、エンジン冷却用の 110℃冷却ラインと共有、さらには空冷のみで電力変換器を搭載できる可能性を意味する。すなわち次世代ハイブリッド車の低コスト化、小型軽量化に大きな貢献が期待されることとなる。

 後者のスイッチング周波数の高周波化は、そのまま電力変換器に使用されている受動素子(インダクタ、トランス、平滑用キャパシタ)の小型化を意味する。2015 年に開催された全国的な技術展示会において、トヨタ自動車は自社で搭載する電力変換器システム(彼らはPCU:Power Control Unitと呼んでいる)が 1/5 の体積となることを紹介した。これは、SiCパワー半導体のスイッチング損失が従来の Si IGBTと比較して大幅に削減可能であることから、例えば同じ冷却システムと規定する場合、スイッチング周波数を上昇させることが可能となり、受動素子の小型化ができることが大きく寄与している。

 図に示すように、トヨタ自動車が呼んでいる PCU の中には、ニッケル水素電池、若しくはリチウムイオン電池の200V 程度の電圧を 650V まで昇圧する昇圧チョッパと、車両駆動用モータ、回生用ジェネレータを制御するインバータ、整流器から構成される。今回の小型化に寄与するのは主に昇圧チョッパのインダクタやキャパシタ部となる。しかしながら、電力変換器のスイッチング周波数の高周波化は、受動素子の小型化効果に対して大きな問題を秘めている。ノイズの増加である。


続きは『月刊EMC No.343』にて

【月刊EMC No.343 目次情報】

<特集>
◇医療ICT化の進む方向と各種電波に対するリスク管理
・医用テレメータの無線チャネル管理~混信事例とその対策~
 (東海大学 村木能也)
・医療ICT 化における問題点~無線LAN 障害事例とその対策~
 (佐賀大学 花田英輔)

<Technology>
・フルSiC ハイブリッド車時代に要求されるEMC 技術
 (島根大学 山本真義)
・プリント配線板電源層からの放射雑音低減法(プリント基板からのエミッション対策)
 (佐賀大学 佐々木伸一)
・小型ワイヤレス・電子装置設置環境診断システム
 (東芝三菱電機産業システム(株) 前畑典之)

<規格・規制情報>
・マルチメディア機器のエミッション規格の解説と今後の動向
(情報通信審議会情報通信技術分科会 電波利用環境委員会 I 作業班主任 雨宮不二雄)
・静電結合アドミッタンスの試験方法 62153-4-8 Ed.1.0
 ((株)フジクラ・ダイヤケーブル 小川幸三)

<実践講座>
・規制の法的枠組みと動向 ①
 EMC 関連国際標準化組織とその歴史
 (東京大学 徳田正満)
・電源ノイズ解析と設計法 ②
 電源ノイズ解析と設計法
 (大阪大学 舟木剛)
・建築設備の安全設計とEMC ④
 ビル・工場における接地システム設計の知識
 (関東学院大学 高橋健彦)

詳細はこちら


Copyright(C) Kagakujyoho shuppan Co., Ltd. All rights reserved.
※記事の無断転用を禁じます。