【IEC における雷防護手法と関連規格】
IEC 61643-351:2016 Edition 1.0 Components for low-voltage surge protective devices - Part 351: Performance requirements and test methods for telecommunications and signalling network surge isolation transformers (SIT):「低圧サージ防護部品-第 351 部 通信及び信号回線に接続するサージアイソレーショントランス(SIT)の要求性能及び試験方法」は、IEC SC37A・B 国内委員長の筆者が、2011 年 7 月に IEC国際標準化プロジェクト(NP)提案を行い、プロジェクトリーダ、コンビナーを務め、IEC に対応した IEC/SC37B/WG3 国内委員会を設置してメンバーが一丸となって国際標準原案を執筆し、2016 年 10 月に制定されたばかりの新規国際規格である。ここでは、その NP 提案から制定に至る背景・経緯、本規格の重要性、規格のポイントについて解説する。
IEC SC37B(SPC:サージ防護部品)は、雷サージを十分小さなレベルに低減し、人体・機器を保護する個別サージ防護部品の IEC 国際規格を制定するための組織である。これまでに、IEC 61643-311:ガス入り避雷管(GDT)、IEC 61643-321:アバランシブレークダウンダイオード(ABD)、IEC 61643-331:金属酸化物バリスタ(MOV)、IEC 61643-341:サージ防護サイリスタ(TSS)の4規格を制定してきた。
これらはすべて各部品が持つ電圧非直線抵抗特性を利用して、雷等電位化手法により防護するための部品である。このような中、日本から第5の SPC として、これまでとは全く異なるアイソレーション手法で雷防護を構成するための部品である SIT の NP 提案を行った。
これまで日本では『耐雷トランス』の名称で広く使われてきたが、海外ではそれほど普及していない。その背景は、日本は分離接地であるのに対して海外は統合接地が進んでいたため、海外は接地を基準とした SPD(サージ防護デバイス)による雷等電位化手法による雷防護構成が向いているためと思われる。
たとえば低圧配電システムにおけるコンセントに着目してみると、日本の B 種接地に相当する PEアース線を海外では電力供給事業者が電力線とともに供給するため、3 線で接地端子付きの 3 P電力プラグであるが、日本の電力プラグは接地線を含まない 2P プラグが普及し、機器の接地に関しては電力需要家が自らの責任で接地工事を施す C または D 種接地になっている。海外とは異なり B 種接地とは分離接地になっている。通信においても、通信用加入者保安器がすべての電話加入者宅に設置されているが、通信用保安器だけの単独接地であり、他の接地とは分離されている。
このように海外では SPD(サージ防護デバイス)を用いた『Equipotential:雷等電位』手法による雷防護構成が向いている。このため IECでは SPD や SPC(SPD 用部品)の規格開発が積極的に進められてきた。アイソレーションサージ部品に関する規格制定は、世界初である。
続きは『月刊EMC No.346』にて
<特集>
◇EMCC シンポジウム
・医療機関における 適正な電波利用環境の構築を目指して
<Technology>
・ハイブリッドコイルによる照明/AV/OA 機器のノイズ対策
(NEC トーキン(株) 板谷道隆)
・インバータとブリッジレスPFC 回路の伝導ノイズ低減法
(九州大学 庄山正仁)
・高速・広帯域アナログ・デジタル混載集積回路におけるノイズ課題
(東京工業大学工学院 松澤昭、宮原正也)
・接触力計測のためのマイクロメカニカルセンサの実装とノイズ低減
(新潟大学 寒川雅之)
<Information>
・IEC 1906 賞受賞
マルチメディア機器のEMC 規格制定に貢献 実験に基づく寄与文書を評価
(PFUテクノコンサル(株) 千代島敏夫)
<規格・規制情報>
・IEC61643-351:2016 Ed.1.0 解説
サージアイソレーショントランスフォーマポイント解説
((株)NTTファシリティーズ) 佐藤秀隆)
<実践講座>
・製品の信頼性を高めるLSI のEMC 設計 ③
用途別半導体集積回路の電磁両立性設計(1)
(ローム(株) 稲垣亮介)
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