スイッチング回路のノイズ解析・シミュレーション技術(月刊EMC)

2018.8.15 更新
スイッチング回路のノイズ解析・シミュレーション技術(月刊EMC)

【基板も部品のひとつ】

 スイッチング回路の設計で現在多くの設計者の方が目指している、要求されているのは、小型化と高効率化だと考えています。小型化を達成するために、利用するインダクタを小型のものに変更するため、スイッチング周波数を高速化することが手法の一つです。また、高効率化の手法として、急峻なスイッチング波形を利用して、スイッチングロスを削減することがあげられ、急峻なスイッチングに対応できる SiC や GaN などの新しいデバイスの活用が考えられます。

 ただし、急峻なスイッチング波形、つまり、di/dtの大きな波形を使うと、デバイスにかかる電圧は、配線などに寄生するインダクタンスとの積によりあらわされる電圧変化、つまり大きなサージ、ノイズが発生することになり、対策が必要になります。このようなノイズ対策のために回路シミュレータを利用することができますが、一般的な SPICE を使って解析しても現実よりも理想的な結果が得られたり、配線幅や長さから見積もったインダクタンスを考慮して解析してもうまく現実に近い結果が得られないということがよくあります。そのため、シミュレーションの活用をあきらめ、結局試作、検証を繰り返し、大きな部品・作業コストがかかってしまっているという設計者の方も多いのではないでしょうか。

 ここで一度、スイッチング回路の構成部品について考えて見ましょう。パワーデバイス、ダイオード、コンデンサ、インダクタ、抵抗、トランス、くらいでしょうか。これらを基板に実装して、製品が出来上がるわけですが、基板も部品、というようにはあまり考えておられないのではないでしょうか。

 配線の寄生インダクタンスを考慮しながら設計はされると思いますが、配線の構造によって寄生インダクタンスは大きく変わります。2.5cm 角の対角に配線する場合、この例の寄生インダクタンスは 73.6nH から 16.4nHまで変化します。こんなにシンプルな配線でもインダクタンスの見積もりによって、約 4 倍もの差が出ますが、実際の基板の配線構成はもっと複雑になると思います。つまり、経験で見積もるのは少し難しいのではないでしょうか。

 シミュレータを使い、基板の特性を加味するかしないかでどのように解析結果が変わるのかを見てみましょう。回路部品のみの解析結果ですが、部品に寄生する ESR,ESL などは考慮しています。

 この場合、スイッチング波形は美しく、この回路の効率は 72.26% の結果を得ています。次に、電磁界解析を使い、基板の特性をモデル化し、回路部品に加えて解析した例を示しています。スイッチング波形のサージが増大し効率の低下が見られます。

続きは『月刊EMC No.348』にて

【月刊EMC No.348 目次情報】

<特集>
◇スマートグリッド・コミュニティに関連するEMC問題
・電力線通信(PLC)の研究動向とSmart EMC
 (愛媛大学 都築伸二)
・PHV/EV 用ワイヤレス電力伝送システムのEMC 技術開発
 (トヨタ自動車(株) 森晃)
・家電情報機器向けワイヤレス電力伝送の動向とEMC 問題
 ((株)東芝 尾林秀一)

<Technology>
・スイッチング回路のノイズ解析・シミュレーション技術
 (キーサイト・テクノロジー(同) 高野修平)
・省エネを目指すLSI 設計とEMC
 ―スマートカード用暗号LSI を事例に回路レベルの観点から―
 (岐阜大学 髙橋康宏)

<Information>
・半導体製造装置とEMC
 (SEAJ EMC ・安全法規制専門委員会委員長 麻場智明)

<規格・規制情報>
・IEC 62040-2 Ed.3.0 概要解説
 製品EMC 規格 無停電電源装置
 ((一社)日本電機工業会 井上博史)

<実践講座>
・対策事例に学ぶパワーエレクトロニクスのノイズ対策①
 規格試験適合のための手法Ⅰ(伝導ノイズ編)
 (双信電機(株) 碓氷哲之)
・製品の信頼性を高めるLSI のEMC 設計④
 用途別半導体集積回路の電磁両立性設計(2)
 (ローム(株) 稲垣亮介)
・電源ノイズ解析と設計法④
 容量負荷に接続された半波整流回路
 (大阪大学 舟木剛)
・EMC測定・試験のポイント-1. 今更、人に聞けないEMC用語解説
 エミッション測定関連用語④
 擬似電源回路網(AMN)
 ((株)e・オータマ 田路明)

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