省エネを目指すLSI 設計とEMC(月刊EMC)

2018.8.17 更新
省エネを目指すLSI 設計とEMC(月刊EMC)

【CMOS 論理回路の遷移状態による電流変化の違い】

 電子商取引などに利用される暗号モジュールを搭載した IC カードやスマートカードは、利用にあたってプライバシーの保護や高信頼性が求められ、情報セキュリティをいかに実現するかが重要となっている。加えて、IC カード内の暗号モジュールは、情報保護のために、暗号化前の情報(平文)を暗号化し、秘匿化された情報を生成する必要がある。

 暗号モジュールにおいては,暗号アルゴリズムの欠陥による情報漏洩は少ないが、実装上の脆弱性からの暗号漏洩が問題とされている。その脆弱性を攻撃する手法としては、暗号モジュールの消費電力、演算時間、電磁放射解析などの解析が一般的であり、これらはサイドチャネル攻撃と呼ばれている。

 このサイドチャネル攻撃の中でも、最も有名な攻撃が電力解析攻撃である。電力解析攻撃では、モジュール動作中に生じる消費電力の時間変化をディジタルオシロスコープなどの計測器で観測し、その波形を加工・処理して暗号化・復号処理の内容を推定する手法であり、これが差分電力解析(DPA: Differential Power Analysis)である。

 サイドチャネル攻撃により暗号が漏えいする主な要因は、集積回路に用いる論理回路の電力消費遷移とデータ情報との間に相関性があるためである。集積回路には、一般にCMOS 論理を用いるが、CMOS 論理は入力(ないし出力)信号の状況により、電力消費の遷移が異なる。したがって、集積回路の供給電流や集積回路からの放射電力を観測すると、CMOS 論理の演算値が推測できてしまう。

 ゆえに、CMOS による暗号用集積回路の設計においては、入力値をマスクする、回路レベルで電力消費量を削減する、などの実装により対策を行っており、SABLや TDPLなどの論理回路が報告されている。これらの論理回路は、演算時の電流変動は少なくなるが、ピーク電流は高いままであり、モジュール自体の消費電力も高い。ゆえに、電磁放射解析による電力解析攻撃の影響は依然として受けやすいと考えられる。

 このピーク電流を低減するために、近年では、断熱的論理を用いた暗号用論理回路が提案されている(SAL、SyAL)。これらの回路は、ピーク電流の低減化には成功しているものの、電流変動は考慮されていないため、依然として攻撃の影響を受けやすいという欠点を有している。本稿では、ピーク電流を低減し、かつ、電流変動も少ない暗号向けの断熱的論理回路(負荷容量均一化対称構造断熱的論理回路 : Charge Sharing Symmetric Adiabatic Logic, CSSAL)について紹介する。

続きは『月刊EMC No.348』にて

【月刊EMC No.348 目次情報】

<特集>
◇スマートグリッド・コミュニティに関連するEMC問題
・電力線通信(PLC)の研究動向とSmart EMC
 (愛媛大学 都築伸二)
・PHV/EV 用ワイヤレス電力伝送システムのEMC 技術開発
 (トヨタ自動車(株) 森晃)
・家電情報機器向けワイヤレス電力伝送の動向とEMC 問題
 ((株)東芝 尾林秀一)

<Technology>
・スイッチング回路のノイズ解析・シミュレーション技術
 (キーサイト・テクノロジー(同) 高野修平)
・省エネを目指すLSI 設計とEMC
 ―スマートカード用暗号LSI を事例に回路レベルの観点から―
 (岐阜大学 髙橋康宏)

<Information>
・半導体製造装置とEMC
 (SEAJ EMC ・安全法規制専門委員会委員長 麻場智明)

<規格・規制情報>
・IEC 62040-2 Ed.3.0 概要解説
 製品EMC 規格 無停電電源装置
 ((一社)日本電機工業会 井上博史)

<実践講座>
・対策事例に学ぶパワーエレクトロニクスのノイズ対策①
 規格試験適合のための手法Ⅰ(伝導ノイズ編)
 (双信電機(株) 碓氷哲之)
・製品の信頼性を高めるLSI のEMC 設計④
 用途別半導体集積回路の電磁両立性設計(2)
 (ローム(株) 稲垣亮介)
・電源ノイズ解析と設計法④
 容量負荷に接続された半波整流回路
 (大阪大学 舟木剛)
・EMC測定・試験のポイント-1. 今更、人に聞けないEMC用語解説
 エミッション測定関連用語④
 擬似電源回路網(AMN)
 ((株)e・オータマ 田路明)

詳細はこちら


Copyright(C) Kagakujyoho shuppan Co., Ltd. All rights reserved.
※記事の無断転用を禁じます。