人工衛星内通信バスのワイヤレス化に関わる電波伝搬(月刊EMC)

2018.8.22 更新
人工衛星内通信バスのワイヤレス化に関わる電波伝搬(月刊EMC)

【衛星重量および科学衛星のハーネス重量と年数の関係】

 近年、地球環境観測や通信・放送・位置情報提供などの宇宙空間利用や、太陽系起源の解明・生命探査などを目的とした科学観測のための人工衛星開発が盛んに行われている。これらの人工衛星開発は多額のコスト・時間を要し、これらの軽減が求められている。また、衛星通信回線の増大や科学観測機器の多岐化により、衛星重量は増大する一方であり、これにより人工衛星の更なる高コスト化と、重量的な側面からの開発への制限が問題となっている。

 例えば、低高度の周回軌道にスペースシャトルを使って 1 kg の物体を運び上げる費用は実に 2 万ドル以上のコストがかかる。一方、深宇宙探査機ともなれば、重量の増大はロケットの打ち上げ重量の制約によって、ペイロード重量の削減や搭載センサのスペックダウンなど科学観測に深刻な影響を及ぼす。

 図に日本の人工衛星の打ち上げ年数と衛星総重量および科学衛星のハーネス重量の関係を示す。1990 年代まではロケット打ち上げ能力の向上、ミッション高度化による機器の能力向上などにより、人工衛星重量は増加の一途を辿り、1990 年代中盤から 1000 kgを超す大型衛星が数多く打ち上げられている。その後は大型衛星への莫大なコストおよび長期開発とリスクの高さなどにより、単一ミッション対応への小型衛星への要求、衛星の小型化、低コスト化の動向が顕著となり、ミッションによって様々な大きさの衛星が打ち上げられた。

 このような背景から、今後通信・放送などの長期ミッションや有人探査などに対応する大型衛星と単一ミッション・低コストの小型衛星と衛星開発は二分化されることが予想される。単一ミッションに向けた小型衛星開発は今日活発に行われているが、大型衛星に比べより狭い空間になるため、機器レイアウトの設計やハーネスの敷設は一層困難になると考えられる。

 人工衛星搭載機器はバス部とミッション部の 2 つに分けることができる。バス部はデータ処理系や通信系、熱制御系、姿勢系、電源系など衛星システムの維持に関わる基本サブシステムである。一方のミッション部は観測装置や中継器など衛星ミッションに直結する不可欠なサブシステムである。

 近年、ミッションの高度化によって、衛星設計におけるミッション部の設計の優先度は高くなる一方で、バス部には自由度の高いレイアウトを期待することが難しくなっている。また、搭載サブミッション機器が多様化し、サブシステム機器同士を有線接続する信号バスケーブルの使用量が増えていることで、衛星重量の増大を招いている。衛星システムは大部分が手作業であり、ワイヤハーネスの増加は衛星の組み立てや統合および試験を複雑化させ、工数を増大させている。

続きは『月刊EMC No.349』にて


【月刊EMC No.349 目次情報】

<特集>
◇自動化・無人化システムとEMC
・Digital Grid:電力ネットワークイノベーションのもたらす社会変革
 (東京大学 阿部力也)
・生活支援ロボットとEMC
 ((一財)日本自動車研究所 藤本秀昌)
・R10 と自動車の相互承認
 ((独)自動車技術総合機構 交通安全環境研究所 伊藤紳一郎)
・Industrie4.0 の衝撃
 (政策研究大学院大学 永野博)
◇モータ駆動高効率のための磁性材活用技術
・パワーエレクトニクス励磁下で要求される新しい磁性材料研究への期待
 (豊田工業大学 藤﨑敬介)
・永久磁石(焼結磁石とボンド磁石)の基礎と応用
 (愛知製鋼(株) 度會亜起)
・軟磁性材料とアモルファス軟磁性合金の基礎と応用
 (日立金属(株) 中島晋)
・電磁鋼板の高周波モデリング方法~インバータサージ電圧評価への応用~
 (川崎重工業(株) 進藤裕司)

<Technology>
・人工衛星内通信バスのワイヤレス化に関わる電波伝搬
 (東京電機大学 小林岳彦、広瀬幸)

<実践講座>
・対策事例に学ぶパワーエレクトロニクスのノイズ対策②
 規格試験適合のための手法Ⅱ(放射ノイズ編)
 (双信電機(株) 碓氷哲之)

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