【周囲環境ノイズを入力とする整流昇圧動作】
本稿では、著者らが提案・研究・開発を行なっている環境電磁ノイズを利用した人感センサについて解説する。提案している人感センサは環境に存在する電磁ノイズを積極的に利用することで、センサ自体に電力を供給することなく無電源で人の検知を行なうことが可能である。また、その動作回路はレクテナによるエネルギーハーベスティング技術と同一のものであり、電力を取り出すことも可能である。
結果として、人を検知する機能をもったセンサモジュールを無電源で動作させることを可能とし、メンテナンスフリーな人検出システムの構築ができるもの、と期待されている。人検出は様々なオートメーションサービスや安全システムのトリガであり、多くのシステムにおいて必要不可欠なものとなっている。特に近年の BEMS(Building Energy Management System)や HEMS(Home Energy Management System)に対する注目や、IoT(Internet of Things)における人の生活・活動支援サービスに関する取り組みによってその重要性はさらに高まっており、このため、現在、カメラや赤外線、焦電効果を用いたものなど、多くの方式の人感センサが用いられている。
それぞれの方式はそれぞれ特徴をもつが、いずれの方式においてもその駆動には電源を必要とする。特に IoT のように、今後様々なモノにセンサを付与される環境を考えた場合、人感センサに供給する電源をどのように確保するか、ということは深刻な問題となる。現状では、センサの設置場所に電源線を引き回すか、センサに電池を付与する、といった対応が取られるが、それぞれ設置場所や設置対象を制限したり、稼働時間の制限や電池交換のためのメンテナンス・コストの増大が問題となる。
このような問題に対し、筆者らは、環境に存在する電磁ノイズ、ならびに、誘電体である人体がアンテナに近づいた時に見かけ上のアンテナ感度が向上することを利用して、無電源で人検出を行うことが可能な人感センサを提案し、研究を行なっている。以下では、提案するセンサの動作原理、および、その基礎動作、現在までにわかっている適切な CW回路パラメータや人・環境への依存性について述べる。また、アプリケーション例と電力供給性能について解説する。
我々が提案している人感センサは、図に示すように周囲環境ノイズを微小電流・電圧の交流電源とみなし、「交流から高圧直流への変換を行う回路によって直流電圧出力を得る」という技術、および、「人が近接するとアンテナに入力されるノイズのレベルが変動し、出力電圧も変動する」というアイディアを基にしている。アンテナで受信する環境ノイズは整流昇圧回路を通すことである一定のDC 出力を得ることができる。
続きは『月刊EMC No.354』にて
<特集>
◇総務省が考える医療機関における電波利用推進における諸課題
・「医療機関において安心・安全に電波を利用するための手引き」について
(滋慶医療科学大学院大学 加納隆)
・医療機関における無線LAN 利用の課題と対策
((地独)神奈川県立病院機構 小田直之)
<Technology>
・環境ノイズによる無電源動作人感センサの開発に関する取り組み
(豊橋技術科学大学 大村廉)
・~信頼性向上の取り組みと標準化動向~
宇宙線起因中性子によるキャリア通信システムにおけるソフトエラー
(NTTネットワークサービスシステム研究所 森弘樹、岩下秀徳、青柳健一、舩津玄太郎、行田克俊)
・次世代ものづくりにおける人工知能を組み込んだ製品開発環境
(富士通アドバンストテクノロジ(株) 鹿庭智)
・種々のLED 電球と電源線から発生する電磁ノイズの発生メカニズム
(長野工業高等専門学校 春日貴志、井上浩)
<New&Now 規格・規制情報>
・日本建築学会環境規準
「建築物の現場における電磁シールド性能測定方法規準」の解説
(日本大学 三枝健二)
<実践講座>
・EMC測定・試験のポイント-1.今更、人に聞けないEMC用語解説
基本・共通用語⑩
ディファレンシャルモードとコモンモード
((株)e・オータマ 田路明)
・EMC測定・試験のポイント-1.今更、人に聞けないEMC用語解説
基本・共通用語⑪
電波吸収体
(兵庫県立大学 畠山賢一)
・製品の信頼性を高めるLSI のEMC 設計⑦【最終回】
現象別半導体集積回路の電磁両立性検証(3)
(ローム(株) 稲垣亮介)
・電源ノイズ解析と設計法⑤
抵抗負荷・誘導負荷に接続された全波整流回路
(大阪大学 舟木剛)
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