【宇宙線によるソフトエラー発生メカニズム】
近年、半導体デバイスの高集積化に伴い、キャリア通信システムにおけるソフトエラーの発生リスクが増加している。ソフトエラーとは、永久的に半導体デバイスが故障してしまうハードエラーとは異なる一時的な故障で、デバイスの再起動やデータの上書きによって回復する故障のことである。このソフトエラーがキャリア通信システム内で発生すると、様々な故障モードを誘発し、通信サービスに影響を及ぼす可能性があることからソフトエラーへの対応が求められている。
本稿では まずソフトエラーの発生メカニズムを説明し、ソフトエラーがキャリア通信システムに及ぼす影響を述べる。次にソフトエラー対策手法、ソフトエラー再現試験技術を紹介する。さらに上記を通信システム開発に適用するための国際標準化の必要性とその動向について述べ、最後に今後の展開を述べる。
図に宇宙線によるソフトエラー発生メカニズムを示す。宇宙では、太陽や超新星爆発によって、陽子を主体とした高エネルギー粒子が飛び交っている。この高エネルギー粒子が地球の大気に突入すると、大気中の窒素原子核や酸素原子核と衝突し、核反応が発生する場合がある。
この時、原子核内部にあった中性子が飛散する。大気中で発生した中性子の大部分は通常、半導体デバイスに突入しても透過して何ら影響を与えないが、まれに半導体デバイスを構成するシリコン原子核と核反応を起こし、電荷を持った 2 次イオンを発生させる。これが電気的なノイズとなり、メモリに保持されているビット情報が反転する。
また、近年の半導体デバイスは高集積化・微細化に伴いソフトエラーが発生しやすくなっており、半導体プロセス技術の微細化によりソフトエラーが増加する傾向がある。特にSRAM(Static Random Access Memory)は微細化に伴う低電圧化により、急激にソフトエラー発生率が高くなる傾向にある。
ソフトエラーがキャリア通信システムにおいて発生すると想定される事象が故障解析時に事象が再現しない未再現故障である。キャリア通信システムにおいて故障が発生した場合、通信ルートを切り替え、通信サービスへの影響を回避するとともに、ネットワーク監視センタへ故障を示す警報を通知する。故障個所を交換し、システムメーカーの工場にて故障個所の再現試験や検査を行うが、再起動によってソフトエラーは回復しているため、システムメーカー工場では事象は再現せず、解析が長期化してしまう。
続きは『月刊EMC No.354』にて
<特集>
◇総務省が考える医療機関における電波利用推進における諸課題
・「医療機関において安心・安全に電波を利用するための手引き」について
(滋慶医療科学大学院大学 加納隆)
・医療機関における無線LAN 利用の課題と対策
((地独)神奈川県立病院機構 小田直之)
<Technology>
・環境ノイズによる無電源動作人感センサの開発に関する取り組み
(豊橋技術科学大学 大村廉)
・~信頼性向上の取り組みと標準化動向~
宇宙線起因中性子によるキャリア通信システムにおけるソフトエラー
(NTTネットワークサービスシステム研究所 森弘樹、岩下秀徳、青柳健一、舩津玄太郎、行田克俊)
・次世代ものづくりにおける人工知能を組み込んだ製品開発環境
(富士通アドバンストテクノロジ(株) 鹿庭智)
・種々のLED 電球と電源線から発生する電磁ノイズの発生メカニズム
(長野工業高等専門学校 春日貴志、井上浩)
<New&Now 規格・規制情報>
・日本建築学会環境規準
「建築物の現場における電磁シールド性能測定方法規準」の解説
(日本大学 三枝健二)
<実践講座>
・EMC測定・試験のポイント-1.今更、人に聞けないEMC用語解説
基本・共通用語⑩
ディファレンシャルモードとコモンモード
((株)e・オータマ 田路明)
・EMC測定・試験のポイント-1.今更、人に聞けないEMC用語解説
基本・共通用語⑪
電波吸収体
(兵庫県立大学 畠山賢一)
・製品の信頼性を高めるLSI のEMC 設計⑦【最終回】
現象別半導体集積回路の電磁両立性検証(3)
(ローム(株) 稲垣亮介)
・電源ノイズ解析と設計法⑤
抵抗負荷・誘導負荷に接続された全波整流回路
(大阪大学 舟木剛)
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